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こらぼでほすと 留守番8

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翌日、午後から、全員で台所を借り切って、弁当製作なんていう、たわいもないことをやった。三人分のランチボックスに、クラブサンドを詰め込んだ。生憎と、こちらには、和風の食材が少なかったし、腐敗しないもののほうが安全だろうと、そういうものになった。サンドイッチと、揚げ物と、彩りに、スティックサラダを詰め込んだランチボックスは、見た目も綺麗で、食欲をそそるものだ。
「なあ、じじい。今度の時は、俺とアレルヤの別々にしてくれよ。」
 少し大ぶりのランチボックスに、同じものを二つずつ詰め込んだが、ハレルヤとしては、不満があるらしい。
「でも、入るとこは一緒だろ? 」
「入るとこは一緒だけど、アレルヤが先に美味いもんだけ食っちまうからさ。」
 ひとつの身体に、ふたつの人格なんていう、ややこしいことになっているハレルヤとアレルヤだが、普段はアレルヤが主導権を握っている。先に、好物だけ食われてしまうなんてことになりかねないのだと、ハレルヤがぼやく。
「そういうもんかなぁ。じゃあ、次回は、刹那ぐらいの大きさのを二つ用意することにしよう。今回は、これで勘弁してくれ。アレルヤ、平等に食え。」
 ハレルヤの奥にいるアレルヤに、そう注意して、それらを袋に収めた。これで準備は終わった。そろそろ出かけるか、と、親猫の号令で、三人も動き出す。元々、何も持たずにやってきたから、荷物というのは少ない。キラが刹那のために用意したお菓子の袋だけが増えた荷物だ。




 ヘリで、シャトル用の宇宙港に、そのまま運んでもらって、チケットを預かった。チェックインも、すでにされているから、ファイナルコールまで、しばらく待合所で、時間を潰す。ねちねちと紫子猫は、親猫に日常生活についての注意なんてものをしていると、悟空が制服のまま、やってきた。
「よおう、みんな。」
「悟空、どうかしたの? 」
「ロックオンさんを迎えに来たんだ。うちで、留守番してもらうからな。」
 そういう用件であって見送りではない、と、悟空は、まず言った。本当は、キラたちも来ると言ったのだが、八戒が止めた。『吉祥富貴』のスタッフとしては、大層な見送りする必要はない、ということになったからだ。どうせ、何ヶ月かに一度は顔をあわせるのだ。一々、見送りすることはない。マイスター組だけのほうがいい。
「すまないが、うちの困ったのを、よろしく頼む。言うことを聞かないなら、体罰も許可するぞ、悟空。」
「・・・ティエリア・・・・」
「あなたは、無自覚だし、頑固過ぎる。これぐらいは、頼まないと俺は安心できない。」
「うん、任せろ、ティエリア。しばらくは、おかんじゃなくて、うちの親父の代わりしてもらうからな。刹那、ママのことは、キラと俺が、ちゃんと管理するから大丈夫だ。また、帰ってきたら、遊ぼうぜ。」
「ああ、頼む、悟空。」
 黒子猫は、がしっと悟空と握手して、ぺこっと頭を下げた。釣られる様に、ティエリアもお辞儀する。おまえさんたちさ・・・・と、ロックオンは呆れているが、子猫たちは真剣だ。
「まあまあ、いいんじゃない? ロックオン。愛されてるってことなんだから。」
「アレルヤ・・・それ、無理がある。」
「そうかなあ。僕、ここまで心配されたら、むしろ嬉しいよ? 」
 わいわいと、騒いでいると、ファイナルコールが流れた。ほら、時間だぞ、と、ロックオンがチケットをアレルヤに手渡す。
「また、来るから。」
「ああ、待ってる。刹那もティエリアも気をつけてな。」
「あなたも大人しくしていてください。」
「まだ言うか?」
「何度でも言う。」
「もう、十分だ。・・・刹那、ほら行って来い。」
 相変わらず、黒子猫は無言だ。だが、親猫を、じっと睨みつけて、悟空に頷く。
「わかった。ママは、俺が看てる。」
 悟空も、うんうんと頷く。アレルヤに促されて、ゲートを潜ると、三人は一度だけ振り向いた。バイバーイと陽気に手を振っている親猫に、手を挙げると、搭乗口へと消えた。その瞬間に、親猫は、がっくりと肩を落とす。今までの笑顔は、なんだったんだ? というくらいに表情が消えている。

・・・やっぱ、寂しいんだよな・・・

「あのさ、悟空。送迎デッキへ行ってもいいか? 」
「あ、うーん、たぶん、暗いから見えないぜ? 」
「それでもいいから。」
 シャトルが飛び立つまで見送りたいと言うので、少し時間を潰してから送迎デッキに出た。何事もなければ、おおよそ三十分程度で離陸する。タキシングロードへシャトルが動き出して、しばらくして離陸した。見えなくなっても、ぼんやりと空を見上げている親猫に、ちょっと笑って、その腕を悟空が引っ張る。
「そろそろ行こう。」
「ああ。」
 気落ちしたような親猫を、とりあえず誘導して、モノレールに乗せた。最寄り駅まで戻って、そこからはタクシーに乗る。ずっと無言の親猫なんて、あんまり拝んだこともないから、悟空も黙っている。

 寺まで帰りついたら、家に灯りがあった。誰か来ているのか、と、思ったら、こたつに見慣れた身体が転がっている。
「おせぇーぞ、おまえら。」
「さんぞー? 」
 そう、この寺の住職で鬼畜坊主の三蔵が転がっていた。すでに、卓袱台には、ビールの空き缶が何本もあって、随分前に帰宅したことが伺えた。
「サル、風呂入れろ。ママ、メシ。」
「いや、三蔵。」
 今、ロックオンさんは・・・と、説明しようとしたら、親猫が、「簡単なものでいいですか? 」 と、いつもの顔で答えた。
「おまえ、ちゃんと和食は作れるようになったんだろうな? 」
「それなりには、なんとか。」
「じゃあ、作れ。」
「わかりました。あの、洗濯物は? 」
 出かける時に着ていた白の袈裟とか着替えは、どうなったか? と、尋ねる。すでに、三蔵は、着流し姿である。
「部屋にあるぞ。それは、後でいい。とにかく、腹が減った。」
「はいはい。悪いんだが、悟空。風呂は頼むな。」
「ああ、わかった。」、
 バタバタと台所で準備を始めているロックオンを、ちょっ眺めてから、自分の保護者の背中を蹴った。
「いてぇーな、サル。・・・いいんだよ、働かせとけば忘れる。」
「知ってるのか? 」
「イノブタから聞いた。さっさと風呂を炊け。」
 こちらに戻って、すぐに、八戒に連絡はした。ちょうど、子猫たちが宇宙へ上がったと聞いたから、いつもの調子で、わざと用事を頼んだのだ。そうすれば、働くほうに集中するから、落ち込んでいる暇もない。

・・・また、すぐに戻ってきやがるだろうに・・・・

 いや、一緒に行けないことを再確認して落ち込むのだろう。それはわかるのだが、落ち込んでもらっては困る。また、前回みたいに、倒れられたら厄介だ。八戒が、夜の食事は準備した、と、言っていたから、温めるぐらいで済むから重労働というわけでもない。
「焼酎は、お湯割りですか? 」
「おう、梅干いれてくれ。」
「八戒さんが準備してくれてたから、すぐに食べられます。」
「腹減ってるって言ってるだろうが、さっさと運べ。」
 はいはい、すいません、と、お湯と焼酎、それから梅干、さらに、おかずが、卓袱台に運ばれる。起き上がって、自分で、それらを調合する。
「ママ、しばらくは、うちにいろ。どうせ、暇だろ?」
作品名:こらぼでほすと 留守番8 作家名:篠義