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こらぼでほすと 留守番8

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 どっこいしょっっと、イっちゃってる男は、自分を担ぎ上げている。ジタバタ暴れてみるのだが、眩暈がして上手く動けない。急激な動作禁止と言われているのが身に染みた。つまり、暴れれば貧血するのだと、実際に体験してみて理解した。
「私の運命の恋人は、どこだね? お義母様。」
「ここには・・いねぇーよ。残念だが、あんたの探せるような場所にはいない。」
「ふふふふ・・・見縊られたものだ。私の愛は、あの少年と繋がっている。すぐに、見つけられるはずだ。」
「ねぇ、クジョーくん。僕、きみとじっくりと話し合いたいんだ。きみなら、僕の想いを理解してくれるよね。」
「いや、理解できないからっっ。俺、クジョーじゃねぇーよっっ。」
 残念なことに、ロックオンは、クジョーというのが、組織の戦術予報士だと知らなかった。確かに、同じような髪の色で、どちらも巻き毛ではある。だが、似ているのは、そこだけだ。それ以外は体格も性別も違うのだから、ビリーのイっちゃってる度合いは、相当なものだった。

・・・まずい。絶対にまずいぞ、これっっ・・・・ 

 とにかく脱出しないと、どこかへ連れ去られてしまう。くらくらしている頭をぶんぶんと振って、ロックオンは玄関の上がり框から降りようとしたビリーの動きに合わせて足をバタつかせた。さすがに、その体勢は不安定だったから、担いでいる手から、身体ごと滑り落ちた。
「どうしたんだい? クジョーくん。」
 毛布を剥ぎ取って、とりあえず、後退する。一人は怪我人だ。あっちは、どうにかなる。問題は、イっちやってる、この『ビリーさん』のほうだ。
「あんたら、人の話を聞けよっっ。俺は、クジョーさんじゃねぇーし、おまえに病院なんかに押し込められる理由はねぇーよっっ。」
「錯乱したか? お義母様。」
「クジョーくん、具合が悪いんだろ? 顔色が真っ青だよ。」
 じりじりと寄ってくるビリーさんは、目が怖い。本当にイっちやってる人って、こんなに怖いんかいっっ、と、ビビるほどの迫力だ。ゆっくりと近づいてくる手が、ほんと、イヤだ。
 払いのけて、廊下を後退する。武器はないか、と、探すのだが、一般家庭に武器なんてない。逃げようにも、視界がふらついて走れそうにもない。どうしたもんか、と、考えているうちに捕まった。
「ほら、汗が。ダメだよ、クジョーくん。大人しくしてないとね。」
 ハンカチで親切に流れている汗を拭いてくれる行為自体はいいのだが、それ以外は恐怖だ。
「なんだ、ハイネだけじゃ間男は足りないのか? ママ。」
 地獄の底から響くような声がした。ああ、助かった、と、身体から力が抜ける。
「間男? ひどい言い草だなあ、三蔵さん。・・・おいおい、そこの外人さん、その人、うちのママなんで勝手にお持ち帰りは厳禁だぜ。」
 どすっと音がして、イっちゃってる人の腕から離れて身体が後ろに倒れていく。それをハイネが受け止める。
「大丈夫か? ママニャン。」
「・・・助かった・・・ごめん、俺、もう限界だ・・・」
 ハイネは相手を知っている。『あれ』の親友の『それ』だ。ちゃんと顔写真は回ってきていた。
「悪い、地下で実弾射撃やってたんで、声が聞こえなかった。攫われなくてよかったよ。・・・大失態になるとこだった。」
 プロテクターをつけて実弾を撃っていたから、騒ぎはわからなかったのだが、そろそろ様子を見に行こうかと中断して出てきた。本堂に出てきたら、家の玄関に『あれ』だ。慌てて、回廊を走って戻って来たのだ。
「ハイネ、ママを奥へ運べ。俺は、もうちょっと練習をする。」
 ジャキッと安全装置を外したマグナムを片手に、優雅に三蔵は笑っている。まさに、魔王というべき態度だ。
「殺すなよ、三蔵さん。すぐに、アスランが来る。・・・『あれ』は残しておいてやっくれ。」
 回廊を走りつつ、ハイネは緊急コールをアスランに送った。すぐに、駆けつけてくる手筈だ。
「きみたちは、僕とクジョーの仲を裂く気なのかいっっ。それは、僕のクジョーだ。きみたちのママじゃないっっ。」
 その叫びに呼応するように、『あれ』も廊下を登ってきた。
「出たな、堕天使ルシファー。」
「ハイネ、ものすごくムカつくんだが? 」
「まあ、ちょっと待ちなよ、三蔵さん。」
 とりあえず、ママを避難させるから、と、ずるずるとハイネが奥へ、ロックオンを運び込む。「悪りぃー」 と、ロックオンは謝っているが、それどころではない。こりゃ、ラボへ逆戻りかな、と、心配しつつ、畳に横にして戻る。
 追い駆けようとした『それ』は、三蔵の見事な蹴りを食らって吹っ飛んだ。どうやら、こいつは戦闘能力は高くないなと、判断すると、ニヤリと余裕の笑みを浮かべる。すぐに戻って来たハイネに、「アスラン到着まで、何分だ? 」 と、尋ねた。
「まあ、十分ぐらいかな。」
「なら、それまでに嬲り殺すか?」
「あんた、今、本気だったな? 」
「俺は、こいつらにとっちゃ堕天使ルシファーなんだろ? なら、それに相応しいことをやらないとな。」
「今、確実に魔王ルシファーだったよ、三蔵さん。」
 優雅に笑って、『それ』を見下ろしている高僧様は楽しそうだ。本気で、魔王モードだから性質が悪い。

・・・早く来てくれ、アスラン。俺、この人、止める自信がないぞ・・・

 生身の対戦なんかだと、ハイネでも、三蔵には敵わない。あの動きにくそうな着物姿で、優雅にハイネを叩きのめしてくれたことがある。拳銃の腕だけじゃなく格闘でも、相当な手練れだったりするのだ。
「ここで撃つと掃除が大変だから、後でママに叱られないか? 」
「そうだなあ。境内へ引き摺りだすか。」
 とりあえずの時間稼ぎを提案した。ここで嬲り殺したら、どう考えても、血飛沫とか、銃痕とか、いろいろと厄介なものが残ってしまう、ということは、三蔵にも想像できたらしい。ずるっと、『それ』の襟を持って、三蔵が引き摺る。
「僕は、クジョーくんをっっ。」
「ああ? うちにはクジョーなんてヤツはいねぇーな。あれは、うちのママだ。」
 そして、目の前に立ちはだかった『あれ』には、蹴りを叩き込み、転がした。もちろん、急所の鳩尾に一発だ。
「ハイネ、そのぼろ雑巾を引き摺って来い。」
「アイサー。」
 一発で昏倒させた技のキレが、ハイネには、見事すぎて賞賛しか口から出てこない。悟空も大概に強いのだが、この容赦のないところは、さすが、魔王といえる。
 境内に転がしたものの、一匹は気絶しているし、一匹はイっちゃってるとくると、嬲るのもバカらしくなったのか、三蔵は、『それ』にも手刀を叩き込み、昏倒させると境内に捨ててしまった。
「縛る? 」
「はあ? そんな面倒しなくても、すぐに誰か回収してくれんだろ? 」
 けっっと舌打ちすると、本堂のほうへ高僧様は入っていった。たぶん、練習の後片付けに出向いたものと思われる。

・・・じゃあ、俺はドクターに連絡かな・・・・

 伸びてしまったママニャンのほうを、診察してもらうか、と、ハイネも家に引き返しつつ、携帯端末で連絡を取る。
作品名:こらぼでほすと 留守番8 作家名:篠義