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厭な男

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異常なまでの執着をする立石だが、その立石の逃した敵に対して賞賛するような言葉に自然俺は眉を顰める。
こいつの敵は潜水艦だ。ならば“みらい”ではありえない。だが米内閣下の名に内心で苦虫を噛むように顔を歪める。―――――恐らく、あの男だ。角松洋介。あの男が関係している事は間違いない。
そしてすぐに“みらい”に帰還したあの男のルートがはっきりと脳裏に浮かぶ。立石の言う敵というのは角松を乗せた艦に違いない。ならばいっそこの男が沈めておいてくれれば現状より厄介ではなかっただろうか、という事がふと脳裏に浮かびすぐに取り消す。立石を沈める事もせずに逃亡したその優秀な艦は帝国海軍のものだ。乗員は日本人だ。帝国軍人だ。双方に死者がなかった事を感謝こそすれ惜しんではならん。しかしその艦も厄介な相手に出会ったものだ。

潜水艦の指揮を取ったとして、俺は果たして立石から逃げ切る事ができるだろうか?


「こんな妙な単独行動をする艦がいる。それを容認する上層部がある。同じ日本人にも言えぬ極秘任務など、どうせ上層部で何かあったに決まっているからな。貴様ならそういった政(まつりごと)にも詳しいだろう」
「そんな事は俺の知った事ではない。それに、今更そんな艦の事を知ってどうする気だ?もしもそれが身内であったのならば、その足で出向いて首でも絞めて殺すか?そこまで執着するのか?」

この男がその艦に執着するのはそれが逃した敵であったからだ、と俺は推測した。だがそれが誤りであったというのはこの男が見せた笑みで分かった。立石は俺を小ばかにするような、自らを自嘲するような諦めたような笑みを薄く浮かべた。


「艦の検討はついている。だが俺は確実に理解したいのだ。自分がどんな男を殺そうとしたのか」









それからどうやって立石と別れ車に戻ったのかは定かではなかった。
頭の中にはいつまでも立石の言葉が反響した。背後に流れる景色に目をやりながら、まだあの会議室に立つ立石がこちらを見ているような気がした。いやそんな筈はなかった。あいつは、俺を見てなんかいやしない。あの男が見据えていたのはこの俺ではない。悪い酒でも飲んだような気分だ。

―――――立石は、屈折している。なんて歪んだ性癖だ。
あいつはきっと女を抱いていてもふいに首を絞めるような抱き方をするに違いない。相手との命のやり取りで興奮している。戦場はあいつのマニアックなプレイの場ではない。



しかし、立石とは方向性が違うがそれでも身近にそんな男がもう一人いた事を思い出して、俺はまた奥歯を強く噛み締めた。草加に角松は殺せるだろうか。やはり立石が沈めておいてくれればよかったのだ。

作品名:厭な男 作家名:山田