ヤンデレ
最初抵抗してくる帝人は混乱しているのかと思った。混乱し、錯乱して、臨也に何か弱みを握られているから、
その臨也の天敵である静雄に抵抗しているのだと思った。だから、静雄は何度も何度も帝人に言い続ける。俺は帝人の見方なのだと。
それでも帝人は静雄に抵抗した。静雄の腕から逃れようと藻掻いた。
(どうしてどうしてどうして分かってくれないっ・・・・!)
言葉で分かってもらえないのなら、静雄に残っている手段はたった一つ。自分が一番嫌うその力で、分かってもらうしかなかった。
本気で殴るわけではない。もし、静雄が本気を出したのならきっと帝人の骨は軽く粉砕骨折してしまうだろうから。
静雄はほんの少し、ほんの少し、と念じながらその真っ白な頬に痣を作った。
恐怖に見開かれる帝人の瞳。どうしてそのような目で自分を見つめるのか、静雄には分からなかった。
「みか、」
「近づかないでっ!」
耳に痛いほどの大声を帝人は上げる。静雄はどうして自分が拒絶されなければいけないのか分からない。
どうして自分は拒絶されて、あの臨也が受け入れられているのか分からない、分かりたくない。
何か切れて崩れる音を静雄は聞いたような気がした。それは多分、理性という物だと教えられたわけでもないのに理解する。
その崩壊していく衝動のまま、静雄は帝人の首に手を掛けた。
細い女のような腕。掴んだら折れてしまいそうな、本当に折れてしまうほど細い腕。
静雄はその腕を慎重に、丁寧に掴んでゆっくりと己の犬歯にその白い腕を食い込ませる。
肌が噛みきれるか、切れないかの瀬戸際でその圧力を止めて歯を下へ下へと降下させていった。
「なぁ、帝人・・・お前は俺の物だよな?俺の恋人だよな?なんであのノミ蟲と一緒にいた?
何で、あの胸糞悪い匂いがお前からしているんだろうなぁ?」
静雄は瞳を閉じている帝人の青くなった頬を撫で、そのかさかさに乾いた唇に己の唇を合わせた。
「帝人・・・喋ってくれよ・・・。もしかして、眠いのか?そうか・・・それは悪かったな・・・」
何も言わなくなった帝人に静雄は笑いかけると、帝人に滑らかな羽毛を被せてその痣が痛々しい額に掛かる髪を梳いてやった。
「お休み、良い夢を・・・」