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ヤンデレ

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デリ雄side



ダラーズ、今この名を知らない日本人はいない屈指の金融投資会社。
そのマザーコンピュータの奥深くに進入するプログラムが1つ。
真っ白な世界。真っ白な壁が幾重にも折り重なり行く手を阻む。

(面倒だな・・・)

デリ雄はたばこを吹かすと、目の前にそびえ立つ壁に手を当てた。
すると真っ白だった壁が灰色に変わり、端から灰のようにぱらぱらと崩れ去っていく。
それをかわきりに、幾つもの真っ白な壁がデリ雄の周りから壊れていった。

「・・・面倒だ」

そう零すと、デリ雄はゆっくりゆっくり足を進める。
奥へ奥へと進んでいくと、どこからか歌声が聞こえてきた。その歌声に、デリ雄は奥歯を噛み締める。
そしてその歌声の中心に辿り着いた。
壁から覗くと、そこには瞳を閉じて歌を奏で、このダラーズの全ての情報を操るプログラム、学天がいた。
楽しそうに、嬉しそうに、歌を歌いながら情報を操作している姿は、とても無邪気で愛らしい。

(・・・学天・・・)

デリ雄はつい伸ばしそうになった腕を引っ込めた。なぜなら、学天を背中から抱きしめているプログラムがいたから。
学天を守護するために選ばれた保護プログラム、サイケ。
サイケはデリ雄と全く同種なプログラムだった。それなのに、サイケの方が作られた時期がほんの数日早かった。
その数日の間でデリ雄ではなく、サイケが学天の保護プログラムに選ばれたのだ。ほんの数日の差で。
デリ雄は目覚める前から学天の歌を聴いていた。科学者達がどういう理由でデリ雄達に学天の曲を聴かせていたのかは知らない。
しかし、デリ雄はその歌を聴いて過ごした。この歌を歌うプログラムを守るということがデリ雄にとっての存在意義のように感じた。
それなのに、それをサイケに奪われた。
デリ雄は今、その学天を奪うようマスターから命令を受けてここにいる。学天を守るために作られたプログラムが聞いて呆れる、と自分でも思った。
けれど、ただのプログラムにマスターは選べない。デリ雄は瞼を閉じた、そして開く。

「・・・プログラム実行・・・」

次の瞬間、デリ雄の足下から幾つもの黒い光りが地面を走り、この真っ白な世界へと浸透していった。
これで、このマザーコンピュータのセキュリティは混乱する。残り時間はあと30分。それだけあればデリ雄にとっては楽勝だった。
サイケは歌う学天を愛おしそうに見つめながら、その音に合わせて曲を奏でる。
その2人の姿に、デリ雄は持っていたたばこを捨て足で真っ白な床にこすりつけた。

(ぶっ壊してやる・・・!)

作品名:ヤンデレ 作家名:霜月(しー)