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ヤンデレ

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日々也side




人間とはよく考えたものだ、と日々也は囁いた。
帝人はいつものように日々也と共にお茶を飲んでいた。苺と薔薇のお茶は日々也のお気に入りで、帝人も気に入っている。
その紅茶と、オレンジ、苺のマドレーヌをお茶請けにしながら話していたら突然、日々也が呟いたのだ。
帝人はカップをソーサーの上に置くと、こてりと小首を傾げた。

「何を考えたのですか?」

「帝人はこの薔薇をどう思います?」

日々也は帝人に笑いかけると、小さな小瓶の透明なガラスに入った真っ赤な薔薇をテーブルの上に置いた。
帝人はその小瓶と日々也を見比べて、日々也が微笑んだので帝人はその小瓶を持ってまじまじと見つめてみる。

「ドライフラワー・・・ですか?」

「その通りです帝人。それは小瓶に閉じこめた私が最も愛している品種の薔薇」

「綺麗ですね・・・」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。それは私が最も愛し、最も心血を注いだ品種なのです」

「これ、日々也さんが作ったんですか?」

「えぇ、そうですよ」

「日々也さんって何でも出来るんですね」

帝人は感心したように呟くと、そっとその小瓶をテーブルの上に戻した。
日々也は手を組み、頬杖を付いて帝人を見つめる。帝人はどうして日々也が自分を見つめてくるのか不思議に思いながら、いつものことだったと思い直して、紅茶のカップを手にとって茶色の液体を流し込んだ。

「帝人はどうしてこの花がこんな小瓶に入っているか分りますか?」

「え?」

日々也はにっこりと笑うと、小瓶に手を伸ばして蓋を開けてしまった。
帝人は日々也が何をするのか興味を持ちながら、彼がすることを眺めている。
その視線に日々也は微笑むと、小瓶の中にあった真っ赤な薔薇を手のひらの上に出してしまう。

「見て下さい帝人。ほら、こんな小さな衝撃でもこの薔薇の花びらは砕けてしまった」

「あ、本当ですね・・・。だからこの花のぎりぎりの大きさの瓶に詰めていたんですか・・・」

へぇ、と感嘆の声を上げている帝人の目の前で、ドライフラワーをじっと見つめている帝人の前で、
日々也はその手のひらを握りしめた。
ぐしゃっ、という乾いた紙を潰すのと同じ音が帝人の耳に襲いかかる。
突然の日々也の行動に帝人は困惑した表情で日々也に視線を向けて、息を呑んだ。

「ひびやさ・・・」

「おや?どうしましたか、帝人。ほら、こうすればもっともっと美しいと思いませんか?」

はらはらと手のひらから零れていく真っ赤な残骸。それを日々也は嗤いながら眺めていた。
黄金の瞳に映るのは残虐な焔。帝人は視線を彷徨わせて日々也を見ないようにする。

「帝人?帝人は美しいと思わないですか?こうして壊して、粉々になった姿」

「ぼく・・・は・・・」

「ねぇ、帝人。私はね、大切なものは私以外の目に触れないようにどこかに閉じこめて、永遠に愛でることが、
私なりの愛し方だと、思っていました。大切なものはその姿のまま・・・でもね、思ったのです」

突然帝人の視界が歪む。帝人自信が驚いていく中、日々也は薄く微笑んでいた。
その瞬間、帝人は理解する。さきほどの紅茶かマドレーヌに何かが仕込んであったことを。
帝人の顔が今にも泣き出しそうに歪んだが、すぐに帝人はテーブルの上に突っ伏してしまった。
日々也は唇に三日月を描きながら、帝人の意外に柔らかい質感を持つ髪の毛を撫でる。

「思ったのですよ。本当に大事な物を取られないようにするには、私自身で壊してしまえばいいのだと」

歪でありがなら、それでも美しいと思わせる笑みを日々也は浮かべ、髪の間から除く帝人の耳朶に口付けた。


作品名:ヤンデレ 作家名:霜月(しー)