お姉様にはお見通し
とっぷりと日が暮れた頃、俺はとある屋敷に居た。
「ってことで、バク乳姉ちゃんからのお土産」
「ちょっと人の姉に対して変なこと言わないでよ。でも、ありがとうギル君。おつかれさま」
部屋の中でもマフラーをしっかりと首に巻き付けた俺の支配者は、にっこりと微笑んだ。くいっと手のグラスを傾ける。おいおい、まだウオッカ飲むのかよ。
どさりと俺はソファに座った。
「まいったぜ、あの広さを手刈りなんて正気の沙汰じゃねえ。ここは古代か中世か?いい加減ある程度機械化しないと採算とれねえ」
「お金が無くてね、姉さんも」
にっこりと微笑んだ。こいつの笑みは危険だ。何を考えてるかわからない。
「共同で買え」
「うん、考えとく」
「お前、ぜんっぜん考えてねーだろ!」
はああとため息をつく俺にこいつは
「助かってるよ、君には。こんな風になるなんて思ってなかったから」
「お前からも姉さんにいっとけ、機械を買えと」
「そうじゃなくて、君が僕のうちに来てから、もう20年くらいたったかな?」
俺は天井からぶら下がる悪趣味なシャンデリアを見ながら過ぎ去った年を数える。
「ああ、そんなくらいか。あっという間だったな」
「うん。君、最初はむかつくほど反抗的だったよね」
「当たり前だ!水道管で死ぬほど殴られれば誰だって怒るだろうが!」
「僕らはあれくらいじゃ死なないよ コル☆」
「ざけんな!」
こちらに来た当初、俺はまだ癒えぬ体で抵抗した。気に入らないことははっきり言う。国としては忠実に従うが、俺様自身としてはこいつが嫌いだしな!
「どうして上手くやれたのかな」
「お前には俺の一部を握られちまったからな、上手くやらなきゃやらんだろ。もう誰も褒めてくれることもないけどな。弟からの預かりものの東側も護りたいしな」
俺はこいつに嘘はつかない。そんなことをしてもあまり意味が無いから。俺の望みはもう何度も繰り返した。殴られても蹴られてもそれを曲げることはできないだろう。
「君はいつも弟のことばかりだね」
そんなとき、決まってこいつはこんな顔をする。羨望、憧れ。そして嫉妬。捨てられた子供のような顔に俺はいつの頃からか無視できなくなった。声が少しやわらかくなってしまうのは必然だ。
「お兄様だからな、当然だろ。お前の姉ちゃんだってお前のこと気にしてるぞ」
「本当?」
「だから、パンだってこんなにあるだろ」
ごっそりとした籠の中をみせる。これは作り過ぎだぜ、姉ちゃん。
「パンの数だけ打算もあると思うけど?」
「…確かにそれも否定できないが、それだけじゃねえと思うぜ」
「そうかな?」
「そうだ」
しばし考えるイヴァン。
「うん…君がいうなら信じるよ」
こんなときのこいつはとても素直だ。素直な表情は真っすぐ俺の心に伝わる。いつもこうだといいのに。
「ほら、お前も食えよ、お前飲み過ぎると何言い出すかわかんねえから」
「何って何?」
きょとんとしたこいつに俺は顔を赤くする。
「う、うるせえ、黙って食え!」
「変なの」