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身の上話をしよう

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これは僕が中学生だった頃の話だ。
 当時の僕にとっては並盛の風紀を守ることが生き甲斐で、その行動によって人が離れていこうとも関係がなかった。
 むしろ楽だと思っていた。群れて行動することにメリットを感じられない。面倒なだけだ。
 そんな僕も、まぁ信用のおける副委員長と、もう一人だけ、そばにいることを許していた。
 沢田綱吉だ。

 僕は中学3年になった頃から、沢田綱吉の視線がずっと気にかかっていた。
 沢田綱吉のまわりはいつも騒動だらけで、僕もその渦中にいることも多かったので、勝手に仲間として見られているのだろうか、はたまた、恐怖の風紀委員長として恐れられているのだろうか――僕はそんな風に思っていた。相手にはしなかった。気付かぬふりをした。
 けれどその視線は、思いのほか柔らかい。睨まれたり怯えられたりすることはあったけれど、沢田綱吉のように棘のない視線は初めてだった。だからだろうか、僕は次第に、沢田綱吉を意識し始めた。もちろん、意味のわからない存在への好奇心、程度だ。
そんな折、彼と二人きりで話をする機会があった。下校時刻間際の、三年校舎だ。二年の彼がここにいることに違和感を覚えた。
 最初は、なんてことのない世間話だった。内容は覚えていない。沈黙が何度も僕たちの間に降りた。けれどもどちらからも別れは切りださなかった。
 そうこうするうちに、もう日が落ちているというのに、顔を夕日の色に染めた彼が、僕への気持ちを告げ始めた。
 好きなんです。その言葉だけは、今も僕の記憶に新しい。
 他にも言い訳がましく、ぐだぐだと何か言っていたが、正直覚えていない。
 僕はたいした驚きもなくそれを聞き届けた。心の奥のどこかで、彼の気持ちを分かっていたのかもしれない。
 心の奥のどこかで、彼への気持ちが、本当は潜んでいたのかもしれない。
 ふうん、別にいいけど、なんて、つきあってと言われたわけでもないのに、僕は了承した。


 なんともおかしなことだと冷静に考えながらも、僕たちは恋人同士としてのつきあいを開始させた。
 最初は嫌になるほどぎこちなかったし、面倒なほどにすれ違ってしまうこともあった。 諦めそうになりながらも耐えて、一生懸命な彼を見続けて、だんだんと、彼の気持ちも少しは分かるようになった。何カ月か経った頃には、もうすっかり2人で過ごすことになじんでいて、お互いに構えず、くだらないことを話すこともできるようになった。
家でのんびりと過ごすことも多かった。綱吉が観たいというDVDを借りて観たり、何をするでもなく、ただ体を寄せ合って座っていたり。ご飯は綱吉が最初作っていたけれど、なかなか上達しないので、必ず2人で作った。
 無表情が多い僕とは違って、綱吉は表情豊かだ。笑った顔、拗ねた顔、恥ずかしがる顔、驚く顔、おもしろがる顔、しあわせでたまらないという顔。僕はその一つ一つを、今でも覚えている。覚えてしまうほどに、僕たちは長い時を共に過ごした。

 外にでかけることは、あまりなかった。
 お互いに中学生の時には、友達同士に見えなくもなかったので、そんな風を装って水族館にいったことはある。
 楽しそうに、楽しそうにはしゃぐ彼は、けれども時折、さみしそうな顔を見せた。
両手を水槽のガラスにつけたまま、彼は俯いた。手を繋げない、と一言だけ零した。繋ぎたい、じゃない、繋げない、だった。
 背後に、中学生がはしゃぐ声が聞こえた。繋げばいいと僕は思ったけれど、言いだせなかった。


 僕にしてみれば、ずいぶんと気を利かせた方だと思う。
 彼は普通でいたいのだ。普通でいるために、自分の思いを我慢しているのだ。
 僕としても、彼が後ろ指を指されて、余計な気苦労を負う必要はないと思う。人のいるところでくっつこうと、いないところでくっつこうと、僕たちが恋人同士であることに変わりはない。
 だから外には、あまりでかけず、家で2人きりで、何も我慢せずにくっついていた。彼だってその方がいいみたいだった。甘えてくる彼を、思い切り甘やかせた。当時は保護者ぶるというか、惚れられた側として、冷静に彼に接していたつもりでいたが、今振り返ってみると、自分も相当ふぬけていたと思う。まぁそんな話はどうでもいい。

 2人でいることが当たり前になりつつあった。半年くらい経った頃には、そういう雰囲気になって、体を触ってみたら、恥ずかしそうなものの、嫌そうにはせず腕を首に回してきたので、体を重ねた。
 彼の体は確かに男のものだったけれど、嫌な気はしなかった。
 僕はホモのつもりはなかったから、正直萎えてしまうのではと思っていたのに、とんだ杞憂だったのだ。
 むしろこの綺麗な体を見ることができる男は自分だけだと思うと、満足感を覚えたし興奮もした。
 その時は互いに触りあうだけで終わったけれど、次の時には彼の中に入った。

作品名:身の上話をしよう 作家名:七瀬ひな