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ワインボトルとひまわり

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「持つわけねぇだろ!このナルシスト!鼻垂れクソ木偶の坊!」
 振り回されっぱなしのセイレンは、三度目の蹴りを放つことも忘れ、威勢よく立ち上がって猛抗議する。だが、二日酔いで痛む頭には勝てない。ひまわりを握ったまま、セイレンはふたたび椅子にへたり込んだ。
「てめ……朝からあたしを殺す気か」
「なぁに、自業自得だ」
 ジャッカルは立ち上がって、頭を抱えて声を絞り出すセイレンの背中をぽんぽんと叩くと、調理場へと向かい、グラスに水を汲んで戻ってきた。
「ほら」
 テーブルを枕代わりにしているセイレンの目の前に、とん、と小さな音を立ててグラスが置かれる。顔を上げる気にもならず、セイレンは目だけ動かしてジャッカルを見上げた。
「水でも飲んで、さっさと寝ろよ。それと、このバラは俺が貰っといてやるよ。俺のような色男には最高に似合う花だからなー」
 言いながら、ワインボトルのバラを抜き取っているジャッカルが見えた。確かに、苛立つくらい整った顔に、バラがよく似合っている。
「よく言うぜ」
 もはや悪態をつくのも最小限。まったくコイツを相手にしてるとろくなことがない。セイレンはため息をついて、頭の痛さに目を閉じた。その、視界を閉じた一瞬。
「よく似合ってるぜ、ひまわり」
「っ!?」
 セイレンの耳元で、ジャッカルが囁いた。突然の声に驚いてセイレンが顔を上げる頃には、ジャッカルはすでにケラケラと笑いながら、階段に向かって歩き出していた。投げる言葉が見つからず、呆然としているうちに、ジャッカルは二階へと消えていく。
「……んだよ、ちくしょー」
 空になったワインボトルと、グラスの水と、持ったままのひまわり。それらを順番にじっと見つめて、セイレンはもう一度ため息をついた。
 このグラスの水をボトルに入れて、ひまわり挿して、そしたらあたしも、部屋に戻ろう。セイレンはそう思った。酒の余韻が消えない頭では、そんなことを思った自分自身に疑問さえ感じることが出来なかった。