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いつまでも

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手には自称愛の国のワイン、装丁が美しい詩集、そしてフルート。俺は口笛を吹きつつ、馬を走らせた。




「親父!」
俺は、窓際に座り手入れの行き届いたぶどう棚を眺める親父に、いつものように声をかけた。
「これ、ノックぐらいしなさいギルベルト」
やれやれといいながら、かの人は振り返る。今日はめずらしく鬘をしていない。色のぼやけてきた金髪が揺れた。とても不快そうな声だが、顔は穏やかだ。
「俺様が来るのはわかってただろ?」
にやりとして俺は答える。
「お前が来るときはいつも騒々しい。もう少し静かにできないもんかね」
俺はそっと膝をつき、親父の手をとった。
「遠くからでも俺のことがわかるだろう?フリッツ」
いつも心待ちにしているのだ、本当は。その証拠にいつもここから前庭を眺めている。いつ俺が来てもわかるように。それは俺の勝手な思い込みかもしれないけれど、そう思いたいんだからそれでいい。
「息災か?」
跪く俺に親父はその深い蒼い瞳で覗き込む。父王との確執に暗くしずんだ小さい頃の瞳、大切な友人を失った悲しみと絶望の瞳、何かを振り切った鮮やかな瞳、獲物を狙う黒鷲の瞳、辛酸を舐めつつも揺るがない不屈の瞳、人を拒否する辛辣な瞳、いつもいつでもその瞳を俺は逸らさなかった。
「ああ、元気だぜ!フリッツ、何も心配要らない」
「そうだな、今のお前に心配するのは、道に落ちてるものを拾って食べて腹を壊さないようにとか、よそ見して落馬をしないようにとかそういうことぐらいか」
「ねえっすよ…そんなこと」
ふんと鼻で笑い、親父は外を見た。俺も立ち上がりながら、同じ方向を見る。庭師がぶどうを剪定していた。こうしておけば、来年も美しいぶどう棚ができあがる。たわわになる実を楽しむことも出来る。
「私ができることはもうないかね?ギルベルト」
親父が隠居してずいぶんと経つ、今ではこの宮殿にお伺いに来る者も少ない。
「そうだなあ、偏屈な爺さんにもできることといえば、」
俺はにやりと笑う。
「俺の下手くそなフルートを批評したり、うんと長生きすることだ!」
珍しく親父が声を上げて笑った。



そうしていつまでも傍にいて。



作品名:いつまでも 作家名:ゆう