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いつまでも

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今日も俺はあの宮殿を目指す。
ぶどう棚は変わらずに手入れが行き届き、こじんまりとしたけれども優美な彼の終の棲家。そう、此処に彼は愛犬と共に眠る。
もうずいぶんと月日は経ってしまったけれど、俺は変わらずに此処に来てしまう。昔は駿馬を走らせた。今は鋼鉄の車を走らせる。
結局、最期まで彼に俺の想いを伝えることは無かった。というより、伝える気はなかった。たぶん、気づいていたとは思うけれど。
多くの人々が俺の前を通り過ぎた。多くの君主が俺と共にあった。戦争も何十回とどの時代でも繰り返した。血が流れるたび俺は強くなり、弱くもなった。気がつけば、俺の国そのものが無くなっていた。
さて、俺はどこへ行くのやら。

フリッツのことは思い出というにはあまりにも甘く苦い。
鮮烈な俺にとって忘れがたい君主への想いもいつかは思い出になるかと思っていた。他の人間と同じように。秋が来て冬が来て、また春が来て…何度も季節は巡っても彼の死んだ季節はいつも彼のことを想った。俺はどうしていつまでも彼のことを想っているんだろう。
ゆっくりと階段を上がると、幾人かの観光客とすれ違う。景色を楽しみながら、笑顔で。ガイドブック片手に、一人のアメリカ人が得意げにうんちくを語っている。俺はそれを眺めながらかすかに微笑む。

言えば、よかったのか。一度でも伝えられたらよかったのか。
今更だ。全ては過ぎたる事。

彼は気づいていたはずだ。
でも、彼も何も言わなかった。
だから俺も何も言えなかった。
気が付かない振りをして。いつも彼は俺に笑顔を見せた。
そうして俺も笑ってみせた。



いつまでも俺はあの人と笑っていたかった。
最期の日まで。















作品名:いつまでも 作家名:ゆう