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いつまでも

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「お前だろう?手紙を書いているのは」



今年の夏は雨の日が多い。
じめじめとした室内は、夏だというのにひどく寒かった。
床から染みてくるような冷気は、私の身体には負担だったようだ。
最近は、寝台の上で書き物をすることも多い。私の言葉に彼女は軽く首を傾げた。
「手紙ですか?」
プロイセン軍の下士官である父とフランス人の母を持つ彼女のフランス語はとても響きが美しく、心地よい。これで詩のひとつでも朗読できたら言うことなしなのだが。
いかんせん彼女自身はあまり優雅さからはかけ離れた性格であった。
「わたくしも手紙くらい書く殿方はおりますけれど」
「誰も男とは言っていないが」
彼女は、しまったという顔をしたあと、笑みを浮かべた。
「ごまかしても仕方ありませんわね、ええ、ギルベルト様に書きましたわ。あの御方に頭を下げられては、わたくしに了承する以外のことはできません」
「余計なことだ、二度とするな」
私は厳しく言ったつもりだが、彼女はいいえと首を振った。
「ギルベルト様は、いつも気にかけておいでのようです」
何を?と、尋ねるまでもなく。それは私のことだ。この老いぼれをいつまでも彼は慕う。その想いに気づかないほど私は惚けてはいない。
「時代は変わる。私のことにかまう暇があったら他にすることはたくさんあるはずだ」
今日は昨日よりは天気が良い。彼女は窓を少し開け、換気をしている。久しぶりに風の流れを感じる。心地よい空気に私は少し胸が軽くなる気がした。
「暇があろうとなかろうとたぶんあの御方は、いらっしゃいますわ。此処に貴方様がいる限り」
窓の外を眺めながら、ぽつりと彼女は呟いた。



女は知っているのだ。
私が常より彼の到来を待ち望んでいるのを。
昔、悪魔と恐れた青年は、常に私と共に在った。私が君主の座を譲った後もそれは変わらずに。
それは何故かと問うたことも、彼が理由を言ったこともない。
その問いに答えを出してしまっては、きっと彼はもう此処には来ないだろうから。



作品名:いつまでも 作家名:ゆう