二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

くだらない話

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
たまたま本土での上陸日が重なった堀田さんと、広島内をぶらぶらと歩いた。

まぁ、上陸日が重なったというよりは、島風の弾薬の補給から整備などの諸々の手入れがされるために俺は陸(おか)に上がったが、しかし堀田さんはといえば先日から予備役として陸(おか)に上がっていたというのだから、重なる、というのは語弊があるのだろう。

堀田さんはわざわざ酔狂にも軍から島風の帰港を聞きつけ、俺の将校官舎まで律儀に電報を出してきたのだ。会ってみれば、当の本人は予備役になっているという。どん亀に乗るには、もうそう若くもないし水圧のせいか目と耳に支障が出てきたからな、とその細い目を更に細めて笑った顔に俺も何か思うところもあったが、とりあえずは予備役まで勤め上げたのだから、一応それなりに祝おうという話になり、二人して市内の繁華街へと足を運んだ。


予備役となった後の給金の話や、生活の話、後任となった何某という少佐の話などをぽつぽつとしながら繁華街へと足を向けていれば、俺の脇を赤いふわふわとした帯を巻かれた浴衣を着た丸坊主の子供が走っていき、おにいちゃんまってよぅ、などと言いながら今度は男物の浴衣を着たおかっぱの小さな子供が走っていく。そういえばどこかで祭りでもやっているのだろう、お囃子の音も細く聞こえてくる。

「今の、浴衣が男女逆だったんじゃないですか?」
「お古か何かを着せられたのでしょうか、それなら母親が手直ししてやるべきだ」
そう続けた俺に堀田さんが喉でちいさく笑う。

「ここらの祭りはそういう事なんだ」
「そういう事?」
「女は男装を、男は女装をして舞いや踊りを奉納するらしい。確かここらの寺社の主が両性具有だったかの逸話があったらしいが、すっかり忘れてしまったな。私も寺社の宗派には詳しくないが、神楽なんかじゃ多いらしい。まぁ、歌舞伎みたいなものなんだろう」

へぇ、随分酔狂なものですね、と返しながら、堀田さんの馴染みの店へとぽつぽつ歩いたが、そういうあべこべの格好をした男女や子供らが幾人も脇を通り抜けていく。そういえば、祇園で遊山した時、節分の行事だとかで祇園の女がまるで役者みたく男装をしたり髷を結っていたな、と思い出しながら、それでもそういう道理とは逆の事をしたがる祭りの酔狂さを好ましくは思う。






やがて店についた。こじんまりとした酒屋とも小料理屋とも食堂ともつかぬ店だ。いかにも堀田さんらしい。
一階では地元の労働者らしき男らが顔を突き合わせてガヤガヤと騒ぎ立てる、油っぽい床、埃と汗の臭いの中に料理の匂いが濃厚に混じったなんともいえない臭いを掻き分け、堀田さんは一言そこの女将に「上に上がらせてもらうから」とだけ伝えて勝手知ったる我が家のようにトントントンと階段を登っていく。
俺もその後に続いてギシギシと鳴る古い階段を登っていく。すると二階は下の客よりはもう少ししっかりとした人間が個室でこじんまりと顔を突き合わせて話しこんでいるのがわかる。どうも“くさいな”、と思った。堀田さんはまた勝手に靴を脱いで勝手に隅の部屋に上がりこむ。同じように靴を脱いで向き合って座るなり、俺は小声で堀田さんに尋ねた。


「堀田さん、ここは何かまずい店ですか?」


堀田さんはその細い目をそれでもわずかに瞬かせ、困った時の癖の通り首の後ろを掻いてうやむやに頷いた。

「貴様のその勘の良さが上に煙たがられる理由だな」
「それは上が能無しだからでしょう。で、何がまずいんです?」

隣の客の靴が良い例だ。下の客層の人間がはいているような汚く草臥れた下駄やら草履ではない。ピカピカに磨かれた革靴。あきらかに生活の質と階級の違う客がこうして入り込んでいるのだ。何かそれだけの理由があるに違いない。

「まぁ・・・あれだ、禁止されている酒や鰻、肉が出るというだけの事だ」

地元の小金持ち、それに広島市内であるのだから中にはこうして自分達のような佐官もこそこそと足を運ぶ店だと堀田さんは皮肉に目を細めて笑った。それだけ答えてしまえば、さほど好奇心を満たされる類の答えではなく、そうですか、と答えてしまえばもう話題はすっかり尽きた。やがて女将が上がってきて、ちらっと俺を見てから堀田さんから注文を受けてまた下へと降りていった。



「そういえばお前、随分上と揉めたらしいな。懲戒食らうところだったかもしれないと聞いた」
女将がおいていった湯のみに手を伸ばしながら、堀田さんはどこから聞きつけてくるのか、そんなくだらない事を言った。

「別に大した問題ではありませんでしたよ」
「大したことだろう。少佐が大佐を殴っちまうってのは」
「・・・・なんだ、知っているんじゃありませんか」

もうとっくに時効だと思っていましたよ、と笑った俺に堀田さんは少し気分を害したような、あるいはますます心配でもするような顔つきをして腕を組む。するとまるで世間一般でいう所の、これから叱られようかという息子と、これから叱りつけようかという父親のような絵面になってしまう。


「何があったんだ?」

お前は随分勝手をするようだが、組織ではそう傍若無人な振る舞いはしないだろうから、お前に非はないんだろう、とそれらしいことを言う堀田さんに、なにか面倒になって俺は口を開いた。






今日の祭りではないですけれど、うちの艦の上層部とのちょっとした宴の席がありましてね。

本土の高級な料亭に席が設けられたんですよ。ここの店のようにこそこそ酒や鰻を出すわけもなく、堂々と大盤振る舞いにいくらでも振舞われ、中には露助のウィスキーまで出てくるのだから驚いたものです。私も機嫌よく女に酌をさせたり、南東での話をしたりいくらか気持ちよく飲んでいたのですが、その私が殴った大佐が酒の悪い人でして、若い下士官らを捕まえて踊れ、なんて言うんですよ。まぁ、酒の席で下士官がやっかいな事を言いつけられるのは仕方のないことですが、こともあろうに女達に言いつけて化粧もしてすっかり女のようになれ、とこう言うんですよ。

酒の席ですからなかなか盛り上がり、女達も悪乗りして、五、六人の下士官のにきび面を上手く化粧で仕立て上げ、更には着物まで羽織らせたもんですから、その似合わない女装に随分な騒ぎになりました。私も趣味が悪い、と苦笑しながら眺めていたのですが、ふいにその大佐と目が合いまして、よし立石!次はお前だ、と言うんですよ。もちろん断りましたよ。冗談じゃない。けれど酒の席ですからね・・・。女がじゃあ紅だけで良いじゃありませんか、と妥協点を持ちかけてきたのでそれだけ許して、まぁ、笑い話となってそこで終わったのですが、その後です。


私が小用に席を立って戻ってくる途中でその大佐が立ってまして、想像はできたでしょうが事もあろうにおっ立てていたんです。汚いものを見たな、と眉を寄せた俺でしたが「ではお帰りですか?」と促したんです。帰りに女にでも抜いてもらえ、という意味でしたが、私の手を取ってその貧相なイチモツを握らせたので殴り倒しただけの話です。


それでそいつがぎゃんぎゃん騒ぐものですから騒ぎになったんです
作品名:くだらない話 作家名:山田