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前世を言うのは後にしてよ

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「・・・わかった。本当のところ言うとね。真田の旦那、なんか悩んでるっぽいから会わせるのどうかなーって見合わせてたところ。」
「・・・記憶を取り戻して?意外に繊細なんだな。」
「・・・違う。絶対違う。お館様に槍働きで貢献するか音楽家として貢献するかで悩んでるのは絶対違うと思う。」
くっと伊達ちゃんが噴出した。
「何だソレ!この時代で槍働きって!!」
「そーなのよ・・・どうも記憶の整理が追いついていないらしくって。」
「でもまあ、それなら期待できるな?」
「ん?」
「明日でいいぜ、手合わせさせろ?」
ニタリ、竜が牙を剥くようにして、伊達ちゃんが笑った。
拒否など認めない、とその顔が言っていた。


「で、真田の調子は?」
「知らないよー?でも相変わらずじゃないかな。今日は大学も無いし、バイトもコンサートも無いはずだから、一日槍を振り回すつもりだと思うよ。ていうか、音楽の勉強しなくていいのか、俺様はそっちの方が心配。」
溜息を吐きつつ茶碗を置くと、伊達ちゃんがソレを手元に寄せて白湯を注ぐ。
そのまま茶筅で軽くゆすいで、建水に湯を捨てた。
「Good! 今日は邪魔も無いんだな?」
「道場の他の人たちが何にも言わなきゃね。」
「なら行くか。」
いつの間にやら、片倉さんが細長い布袋を片手に、障子の向こう側で待っていた。
竹刀だろう。
片倉さんちは剣道場で、伊達ちゃんはそこで剣の腕を幼少の頃から磨いている。
だから、武具一式は片倉さんの管轄なのだそうだ。
立ち上がって茶席を出れば、冷えた空気が一陣吹いた。
外はもうすぐ来る春の準備で、木々の芽が萌えている。
ふと振り返れば、茶席は釜と建水と茶巾と棗、それに茶筅と茶碗がそのままだ。
すぐにまた戻ってくる、中座しただけのような風景。
戦に出るわけじゃない。
それを思って、俺様は少し残念がっている自分に驚いた。
平和はいいことだ。
前世の死に方なんて、今生でだってしたくない。
なのに。
少しだけ、命がけの戦いに身を置いていたことを羨ましがっている自分がいる。
前世とは、関係なく。紛れも無く、現世の自分が。
これはもう、人間が持つ業というヤツなのかもしれない。
その業風に吹かれに、俺様は伊達ちゃんの後を着いて行った。