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こらぼでほすと 来襲1

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子猫たちは帰ったから、とりあえず、三蔵のところで、ママをやっているロックオンは、比較的のんびりと暮らしている。
「おい、俺の袈裟は、どこだ?」
「袈裟なら、桐のタンスです。」
「いや、黒じゃなくて白のほうだ。」
「それなら、クリーニングに出しました。」
「三着あっただろ?」
「全部ですよ。どれもこれも、汚れてましたからね。今、入用ですか?」
「ああ、これから要るんだがな。・・・おまえ、あんなもんは洗濯機でちゃちゃっと洗えばいいんだよ。いちいち、出さなくてもいいぞ。」
「あれ、正装用なんでしょ? 洗濯機じゃ、着物の汚れは無理です。」
 そろそろ出来ているだろうから引き取ってきます、と、ロックオンがクリーニングの引換券を手にして飛び出した。まあ、この程度の用事だから、比較的、楽といえば楽だ。手のかかるのは、三蔵だけだし、悟空のほうは自分で自分のことはやってくれる。それに、適度に用事を言いつけてくれるほうが、身体を動かせて、ロックオンにしても楽しい。

 洗濯物を引き取って戻ってきたら、寺の山門に人が立っている。ちょっと前に、自分にもストーカーめいた人が居たので、足を止めたが、相手も気付いて、こちらへ向いた。
「あ、れ? 」
「はーい、ロックオン。」
「ミス・スメラギ? 」
「いやねぇ、幽霊でも見るみたいな顔しないでよ。・・・ティエリアから聞き出して来たのよ。」
 で、いきなり彼女が、うるっと目を潤ませて苦笑する。こんなとこで、泣くなよ、と、呆れつつ寺の内へ案内した。
「なんだ? おまえ、亭主だけでなくて女房もいるのか? 」
 もちろん、居間には、この寺の住職がいて、白の襦袢姿でタバコを吸っていた。スメラギの姿を目に留めて、ニヤリと笑っている。
「違います。うちの戦術予報士のミス・スメラギです。はい、白。」
「ロックオン? 亭主持ちになったの? 」
「だぁーーーっっ、あんたは黙っててくれ。」
 また、余計なことを・・・と、こめかみに手をやったが、三蔵はノる。
「おう、うちのママに再就職したんだ。」
「あら、それはそれは。よかったじゃないの。」
「あんたら、いい加減にしとけ。時間はいいんですか? タクシー呼びますか?夜の仕事は?」
 外出するんなら、時間は大丈夫かと、ロックオンが尋ねる。白の袈裟を羽織りつつ、三蔵のほうも予定を告げる。
「大通りで、タクシー捕まえる。夜は直通で、あっちへ行くから悟空にも、そう言え。」
「わかりました。」
「ママの女房は、いい女だな。」
「うっせぇーよっっ。さっさと行きやがれっっ。」
 びしばしと言い合いしつつ、財布だの書類カバンだのの確認をして送り出している姿というのは、まさに、ここのママというに相応しい姿すぎて、スメラギのほうも、マジ? と、ちょっと怪しむ光景だった。送り出して戻って来たロックオンのほうは、まあ、お茶でも、と、台所へ歩き出す。後から、スメラギも、それにくっついて台所へやって来た。
「ティエリアからの監視指令でも出たのか? 」
「まあ、それもあったけど。この目で確認したかったのよ。」
 生きてることを・・・と、付け足されて、ロックオンも声を出して笑った。確かに、スメラギとは、あれ以降、通信でしか顔を合わせていない。通信は誤魔化しが効く代物だ。
「これ以上ないってくらいに生きてるさ。・・・・ただ、まあ、宇宙には上がれないってだけだ。」
「そこが問題なんでしょ? 」
 マイスターとして活動できないことは、一応、伝えてある。治療に時間がかかるとだけ通信に乗せたからだ。
「つまり、その確認か? ミス・スメラギの目的は。」
「それもあるわね。」
 はい、そっちへ移動と、紅茶を用意して居間を顎で指す。小難しい話になるのは、目に見えているから腰を落ち着けて話そうと切り出す。しばらく、無言で紅茶を飲んでいたものの、どちらも言いたいことはあるわけで、それとなく、口を開く。
「ティエリアの報告ではね、『治療に時間はかかるものの復帰は可能』 ということになってたの。」
「・・・ああ・・・」
「でも、それもおかしな話なのよね。通信で話している限り、宇宙に上がれないほどの怪我があるようには見えなかったから。」
「・・うん・・・」
「本当のところは、どうなの? マイスター候補を探せって通信されたほうは、びっくりだったんだから。」
 復帰までの時間が数年単位でかかることは、先に知らせてある。組織が活動を再開するまでに間に合うか、と、問われたら、無理だろうと返事する外ない。なにせ、治療方法が、まだ確立もされていないのだ。
「右目だけのことじゃないんだ。負のGN粒子をかなり浴びているから、遺伝子段階で壊れてる部分があるらしい。・・・回復が異常に遅いんだ。地上で普通に生活するには支障はないんだが、たぶん、低重力下で慣れてしまったら地上では暮らせないということで、こっちのドクターは俺が戻るのを許可しない。」
 利き目が使えないスナイパーという段階で、お払い箱決定だけどな、と、冗談交じりに返事したら、口元をぎゅっと結ばれた。組織の戦術予報士としては、組織内の人員も把握の対象になる。だから、正確な情報を渡すことにした。自分が動ける前提でミッションプランを作られたら、それこそ、実現不可能なプランとなってしまうからだ。
「ごめんなさい。」
「はあ? なんの謝罪だよ。」
「私のプランで、たくさん、人が死んだわ。私には、才能がないのかもしれない。・・・あなたの後で、リヒティとクリス、それから、モレノさんも亡くなった。ティエリアもアレルヤも刹那もラッセだって無傷じゃなかったわ。・・・もう、本当に謝って済むことじゃないけど・・・・」
 死傷者があっただろうことは気付いていた。ただ、誰かまでは、誰も教えてくれなかった。自分が無茶をした後で、もっと過酷な状況になったことだけは聞いていたが、そのプランを組んでいたスメラギは心中穏やかではないだろう。だが、スメラギが優れた戦術予報士だと言っても全能ではない。それに、あの状況では、死傷者が出ないほうがおかしいぐらいの状態だ。全てが、スメラギの責任ではないと、ロックオンは思っている。
「おいおい、ミス・スメラギ。あんたは神様じゃないんだから、完全なプランなんて無理ってもんだろう。三機のMSで一個艦隊と擬似GNドライブを積んだMS相手にして、生き残ったヤツがいたってほうが凄いんじゃないか? だいたい、それで言うなら謝るのは俺のほうじゃないか? デュナメスを使用不能にして、戦況を悪化させたのは俺だぞ? 」
 艦隊の旗艦を撃つミッションをクリアーできなかったのは、ロックオンで、それが遂行できていれば、戦況はかなり変ったはずだ。駒が課せられたミッションをクリアーできなければ、スメラギのミスではない。その駒のミスということになる。
 ロックオンの言いように、スメラギのほうも、くすっと笑って、「相変わらずね。」 と、紅茶を一口含む。
 この男は、大変、女性には優しい。活動前の準備段階でも、よく愚痴は聞かせていたが、それで煙たがることもなかった。
作品名:こらぼでほすと 来襲1 作家名:篠義