こらぼでほすと 来襲1
「まあ、そうなのよ。ちょっと慰められたかったのよ、私は。あなたがいなくなっちゃったから、私の愚痴と飲みに付き合ってくれる相手がなくなっちゃったんですもの。」
「そりゃ申し訳ない。地上でなら、いくらでも付き合うぜ。」
「そうね、付き合ってもらおうかしら・・・そうだ、吉祥富貴で、いい男を侍らせてもてなされたいわね。」
以前、ロックオンが借り出されたミッションの時に、代わりに派遣されたMSパイロットたちは、一様にホストで、その店に勤めているということは聞いていた。たまに、羽目を外して飲むというなら、そのほうがいい、と、言い出した。
「店か・・・うーん、どうなんだろうな? うちは、一見さんはお断りらしいから・・・ちょっと待ってくれよ。」
自分が紹介するという形で、スメラギをお客として店に来訪させることは可能なのか、そこのところがよくわからない。その辺りに詳しいだろう、経理責任者に連絡してみることにした。
「ああ、そういうことなら大丈夫ですよ。・・・ええ・・・要は、身元がはっきりしていて、うちの店のことを口外しない方であればいいんです。・・・今夜? ええ、じゃあ、アスランに連絡しておきますね。」
ロックオンからの連絡に、八戒は、そう返事した。お客様審査なんて堅苦しいものではない。お客様が連れて来る場合や、紹介ということなら、かなり厳しく審査もすることになっているが、ホストの身内なんてものになると、途端に軽くなる。ホスト自体が普通ではないのだから、その知り合いも普通ではない。だから、逆に簡単に許可されてしまうのだ。
携帯を切ったら、悟浄が、それを取り上げて相手を確認する。
「なんだ、ママニャンか。・・・ん?・・・あいつの身内って誰だよ? 」
「スメラギさんとおっしゃって、組織の戦術予報士だそうです。あなた、以前に会ってるじゃありませんか? 悟浄。」
悟浄は、組織のほうに出向させられたことがある。
「・・・ああ・・・あの色っぽいねーちゃんか。」
「その方が、今夜、店にいらっしゃるんです。せいぜい、気持ちよくおもてなししてあげてくださいね。」
「ありゃ、ハイネと鷹さんの担当だな。ママニャンの監視に降りて来たってとこか?」
「それよりも、確認だと、僕は思いますね。ロックオンの現状を正確に把握するべくいらっしゃったんでしょう。ティエリアくんは、きっと、正確なことは報告してないでしょうからね。」
紫子猫は、親猫にだけは甘い。組織との繋がりが切れるような報告はしなかったはずだ。そういう報告だと、自分たちも親猫のところへ戻れなくなってしまうからだ。
「で、ママニャンのことだから、リタイヤだって身も蓋もねーこと言いやがったんだろうな。」
「そうでしょうね。・・・ま、僕は、その方は知りませんが、血も涙もないってことはないんでしょ? 悟浄。」
「お涙頂戴ってか? まあ、そこは、鷹さんたちの腕の見せ所ってことだろうな。ミーティングの時に、どうにかしてくれ、って言えば、どーにかすんだろ。」
リタイヤして組織を抜けることになっても、子猫たちとの接触はさせてやってくれ、というふうに持ちかけて納得させればいいだろう、と、悟浄は考える。ロックオンが、組織内で、どれくらいの地位にあったかではなくて、どれくらい他のメンバーに頼られていたかが問題だ。そう考えれば、自ずと答えは出る。刹那が、あれほどくっついているのは、その何よりの証拠だろう。あの性格バラバラのマイスターたちのリーダーをやっていたのだから、リタイヤだからと切られる心配はないはずだ。
「うちとの関係は継続するんだから、地上の待機所だとでも理由をつければいいんじゃないか? 」
「まあ、そんなところでしょうね。・・・携帯を返してください、悟浄。アスランに連絡します。」
「浮気チェックゥーとか?」
「バカなこと言ってると、あなたのをチェックしますよ? 」
「やだぁー八戒さんったら、陰険。」
お互い、本気ではないので顔は笑っている。悟浄の携帯端末には、かなりの女性名が並んでいるが、どれも知り合いか店の客ばかりで、浮気のウの字もないことは、八戒もわかっている。何かの時の情報収集とか、お役立ちな職業の女性のアドレスばかりで、目的も知れている。対して、八戒のも同様のものしかないし、こちらは数が少ない。
悟浄から携帯を取り上げて、アスランに連絡を入れると、あちらも、ふたつ返事で了承した。
店が開店するのは、夕刻だから時間は、かなりある。どこか、他に行くところはないのか? と、スメラギに尋ねると、こちらも、本日の目的は、これといってないとの返事だ。
「とりあえず、昼飯は提供するけど、俺、それから小一時間は昼寝するから相手はできないんだが? 」
「それなら、外をブラブラしてこようかしら。・・・あなたは出勤するのよね? 」
「まあ、ミス・スメラギのエスコートはさせてもらうよ。」
今のところ、出勤していないのだが、本日は案内があるから、よかろうと思っていた。ナマケモノでいることが仕事だなんて言ったら、さらに余計な誤解が生まれそうだ。
「リクエストが、あれば受け付けるぞ?」
「うーん、そうねぇー。・・・・・そうそう、ホワイトソースのオムライスが食べたいわ。ニンジンのグラッセ付きで。」
「あんたは、子供か? それ、刹那の好物じゃないか。」
ミッションが過酷になる前は、時間があれば、ロックオンが料理をしていた。その時に、刹那が好んでリクエストしていたのが、それで、相伴ということで、他のクルーも、それを食べていた。さすがに、ラッセは、「子供向けすぎて食べるのが恥ずかしいぞ。」 と、文句は言っていた。
「たまにね、食べたくなるのよ。でも、そんなこと言ってられる状況じゃなかったし、どっかの誰かさんは怪我しちゃうし、リクエストできなかったのよね。」
「すいませんね、勝手に怪我して、ついでに行方まで眩まして。」
「ほんと、とんでもないわよ、あなた。・・・・真剣に凹んだんだから。」
いや、もう、あの状態で宇宙へ放り出されたから、自分は死ぬんだな、と、思っていたロックオンだって、ここに居るのが不思議なほどだ。なぜ、生きてる?と、目が覚めて驚いたのだ。
「それについては謝る。刹那にも、こっぴどく叱られた。・・・・二度と、あんなことはしない。というか、できなくなったが正しいかな。」
あの無茶をするには、マイスターであらねばならない。リタイヤした自分は、その状況に戻ることは不可能だ。ここで、全部が終わるまで待っていると、刹那と約束した。何もできなくても、待っていてやることだけはできる。それで、刹那が安心して出て行けるというのなら、それでいいとも思っている。それについて、スメラギにも伝えた。彼女のほうも、「それでいいの。あなたが地上で待ってるってことが、私たちにも安心をくれるから。」 と、微笑んでいる。
「さあ、リクエストを受け付けて。」
しんみりした話を断ち切るように、スメラギは元気良く宣言する。はいはい、と、ロックオンも立ち上がって台所へ戻る。どうせ、悟空のおやつを製作するつもりだったから、そういう食材は準備してある。
作品名:こらぼでほすと 来襲1 作家名:篠義