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太陽の花

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1.

 昼前に、珍しくブラックバードを押してガレージに帰ってきた友人は、いつにも増して鮮やかな橙色に埋もれていた。

「クロウ、お前いつの間にそんなに髪が伸びたのだ?」
「違ぇし。髪じゃねえよ」
 クロウが抱えていたのは、自身の髪によく似た色の花束だった。あまりに色が溶け込み過ぎていて、遠くから見ると確かに髪の毛に見えないこともない。
 ひと抱え分の花束を見下ろして、ブルーノが尋ねた。
「どうしたの、その花」
「配達の帰りに貰ったんだ。近所のおばちゃんとこに荷物送ってった時に」
 遊星とクロウとジャックがポッポタイムに居を構えてから、もう半年以上も経つ。
 当時はサテライト出身、しかもマーカー付きが二人もいることから、それなりに偏見の目に晒されていた。
 資金調達にと始めたクロウのブラックバード・デリバリーや遊星の修理業もそれほど客が寄って来ることがなかった。
 花をくれたという女性も最初はあからさまに三人を避けていたが、急な宅配の依頼や孫娘のプレゼントの配達でクロウの世話になってからはお得意さんの一人になった。遊星のところにも小さな子どもが母親連れで玩具を修理してもらいに来る姿を見かけるようになった。
 人の意識はいつか必ず変えられる。いつだったか遊星がしみじみと語っていたのをジャックは覚えている。
「うちに同居人が一人増えたって話したらさ、男だらけの家はむさくなるだろうっておばちゃんがくれた。咲きすぎて余ってるからってどっさりと」
「そうだったのか」
 普通に走ると花束を駄目にしてしまうから、クロウはブラックバードを押して帰ってきたのだった。
「ふん、でこれは何という花なのだ」
「ああ。確かチト……チト……やべ、忘れた」
「お前のことだ、そんなことだろうと思っていたが」
「うるせえな。後でアキにでも聞けばいいだろ」
 植物族の使い手とは言っても、アキが全ての花に詳しいとは限らないだろう。バラならともかくとして。
 遊星の頭にそんな疑問が浮かんだが、今は何よりも、
「それでクロウ、この花一体どこに置くんだ?」
「……花瓶、一個じゃ足りないよなぁ……」
 仮にもお得意さんから貰ったものを無下に枯らしてしまうのはとてもまずい。
 男四人はしばし黙り込み、それから急いで花瓶の代わりになるものを手分けして探すことにした。


 ポッポタイムの居住空間にはあの橙色の花があちこちに飾られ、男所帯の空間はそれなりに華やかになっていた。
 ガレージにも空き缶入りのあの花が棚に飾られている。
「今日の配達分はこれでよしっ……と」
 クロウは午後の配達に、遊星とブルーノはエンジンの改良作業に入る。
 ジャックはと言えばすることもないのでコーヒーでも飲んで時間を潰そうと思っていたのだが、
「ああ、そうだジャック」
「? 何だ」
 クロウがガレージの片隅に置いていた紙袋を拾い上げ、ジャックに手渡した。何だかずっしりとした重みに嫌な予感がしたが、ジャックは中身をのぞいてみる。
 袋の中身は色とりどりの求人雑誌だった。どこからかき集めてきたのか十センチほどの厚みの束になっている。
「何だこれは」
「暇だろうから俺がわざわざお前のために集めてやったんだ。夕飯前までには全部目を通しておけよ」
「何でおれが」
「さぼったら、ブルーアイズマウンテン永久に禁止な」
「ぐっ……」
 念入りに釘を刺すクロウの背後から、デュエルの時以上に怖いオーラを感じる。
 ジャックは渋々求人雑誌の束をクロウから受け取った。


 キーボードの二重奏がガレージの中で響いている。
 遊星とブルーノが専門用語を交わしつつパソコンに向かっているのが、ジャックの座っている安楽椅子からも見えた。
 耳を澄まして二人の会話を理解してみようとしてみたが、D-ホイールの話題はまだしもモーメントや遊星粒子の話題はどうしても脳が受け付けてくれない。数分後には、ジャックは会話を聞く作業を放棄していた。
 クロウは遊星とブルーノの会話量が自分とのそれを軽く超えたとぼやいていた。ではジャックとの会話量はまだ大丈夫なのだろうか。遊星とジャックがクロウに出会ったのは、龍亞や龍可と同じ歳かそれより前かの時だったはずだ。
 まだ半年くらいは大丈夫か。いや、遊星はブルーノとかなり多く喋っている。邪魔が入らなかったら一日中でも。
 腐れ縁の意地にかけてもせめて半年は持って欲しい、とジャックは思った。
 クロウが持ってきた求人雑誌は、ようやく三センチほど読み終えた。時計は午後二時を過ぎたところだ。
 残念ながらめぼしい仕事はこの中では見つからなかった。
 
 
 下の方では、遊星とブルーノが何やら話しこんでいる。部品が足りない、それくらいの情報はジャックにもよく分かった。
「じゃあ僕が買いに行って来るよ。他に買う物とかない?」
「そうだな……ならカップラーメンを頼む。そろそろストックがなくなりそうだ」
「分かった。夕ご飯までには戻って来るね」
 ブルーノがいそいそとヘルメットを被り、黄色いD-ホイールに乗ってガレージを出て行った。
 しばし途絶えていたキーボードの音は、遊星がパソコンに向き直ると独奏となって再びガレージに響く。
 開いたシャッターからは、気持ちのいい風が吹き込んでくる。日に日に暑くなっていくこの季節にこの風はありがたい。
 風に乗って、あの花の匂いがガレージに広まっていく。キーボードのリズムが耳に心地よい。
 いつしか、ジャックは眠気に誘われていた。力の抜けた指から、雑誌がするりと床に滑り落ちていく。


作品名:太陽の花 作家名:うるら