二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

太陽の花

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


 2.

 その国は、五千年ぶりの大災害から復興しつつあった。

 人知を超えた邪神―地に縛られた神―の爪痕が残る街も、人々の懸命な努力でようやくまともな生活を送れるようになってきていた。
 橙色の、太陽の花が咲き乱れる小高い丘。
 街並みや地平線を一望できるその丘は、「彼」のお気に入りの場所でもあった。

「『――』、またこんなところにいたのか」
「『――』。ああ」
 呼びかけた名も、呼びかけられたそれもノイズがかかったようによく聞こえない。それでも、目の前にいる人のことはお互いによく見知っていた。
「人間は、脆いようで強かだな。あれ程神々に踏みにじられ、喰われていった大地がもう蘇ろうとしている」
「ああ」
 しばし黙って街を眺めていた二人だったが、
「……上からは何か言ってたか」
 「彼」の方から先に切り出してきた。
「あれからじじい共は大騒ぎだ。古代の伝承を紐解いて手ぐすね引いて待っていたら、竜が一体現れず、伝承にない新しい竜が現れ、終いには竜が一体神の封印の道連れになって消えてしまったからな。もっともじじい共にとっては、選ばれし者が揃いも揃って若造だらけだったのが不満のようだが」
「現れなかった竜は、先の戦いで深手を負って眠ったと言われていたな」
「それを抜いても、今回の戦いは、あまりに犠牲が多すぎた」
 国の人々も、それから自分たち竜の痣を持つ者も。
「『――』の容体は。お前は見舞いに行ったのだろう」
「ああ、あの戦いからずっと寝込んだままだ。元々それほど身体は強くなかったが……自分の半身の竜を封印された衝撃は強すぎたようだ」
「そうか。少しでもよくなるといいのだが」
 共に戦った仲間を思い、男はつぶやいた。
「こうなると、「次」の戦いはどうなるか俺にも分からんぞ。「次」は竜がどっさり増えるのか、あるいは、竜の痣を持つ者が敵に回るのか」
「……」
 二人の間に沈黙が満ちた。
「それでも」
 先に口を開いたのは「彼」の方だった。
「それでも、次の戦いでも竜の痣を持つ者は力を合わせて戦っていける、俺はそう信じている」
「どんな犠牲を払ってもか」
「確かに、今回の戦いは犠牲が多く出た。街の人たちも、神々に捕らわれた人たちも、仲間も、俺たちは全てを助けることはできなかった。でも、俺たちがこのことを少しでも「次」に伝えていけたら、もしかすると……」
 普段寡黙な「彼」が、珍しく懸命に言い募る。同意も否定もせずに男はそれを黙って聞いていた。
「俺は犠牲を無くしたい。神々に捕らわれた人たちもこの手で救いたい。これは俺の我がままだろうか。願いはいつか叶うのだろうか―――」
 丘に一陣の風が吹いた。咲き誇っていた太陽の花は、橙色の花弁を散らして風に乗せていく。


 一際強い風で、ジャックの眠気はすっかり吹き飛ばされてしまった。
「む……」
 時計は四時を周ったところだ。ジャックが下を見てみると、パソコンの前では遊星が突っ伏してしまっている。ブルーノは買い物が終わっていないのかそこにはいない。
 後二時間ほどで夕食の時間だ。途中で寝てしまったせいで、読み終えた求人雑誌はまだ半分も行かない。
 それにしても小腹が空いた。ラーメンでも食うか、とジャックは安楽椅子から立ち上がり、下のガレージへと降りて行った。
 どうやら遊星はすやすやと寝ているようだった。時折軽い寝息が聞こえてくる。エンジンプログラムを盗まれてから徹夜する量がかなり増えていたから、ここらが限界だったのだろう。
 ジャックがラーメンにポットでお湯を注いでいると、コポコポと水音が鳴った。目を覚ましたのか、遊星が身動きをしている。
「遊星」
「ジャック……俺は、いつから眠ってしまってたんだろうか」
「さあな。ぐっすり寝ていたぞ」
「そうか。二日ぐらいは持つと思っていたのだが……」
「おい」
 ジャックは、きちんと睡眠を取れと幼馴染に言い聞かせるが、聞いているのかいないのか遊星は一つ伸びをして、パソコン作業を開始した。こうなると何を言っても無駄だ。
「全く」
 この場にいても仕方がないので、ジャックはカップラーメンを持って安楽椅子のところに戻ろうとした。ノルマはラーメンを食った後でも十分間に合うはずだ。
 こつん、とジャックの足音が固い床に響く。すると、背後から遊星のつぶやきが聞こえてきた。聞き逃しそうな、寝言にも聞こえるような微かなそれが。
「願いは……叶ったのだろうか」
 思わずラーメンを取り落としそうになるのを堪え、ジャックは歩みを止めた。
 先ほどの夢を、彼も見ていたのか。もしそうなら彼はどんな気持ちであの言葉を聞いていたのだろうか。
 そんなはずはないと否定するのは簡単だった、ほんの少し前の自分なら。しかし、今の自分たちは非科学的な事象の権化と言えるものを五つに分けてこの身に宿している。否定するには、色々なことが身の回りで起きすぎていた。


 次の日、学校帰りの龍亞と龍可、それとアキがポッポタイムにやって来た。
「何これ」
「どうしたのこの花」
 龍亞が面白いものを見つけたように花を指差した。ポッポタイムでこんな光景はあまり目にしないからだ。
 あの花は一日置いただけでは中々枯れなかった。相変わらずポッポタイムは燃えるような橙色に居座られていた。昨日ジャックが求人雑誌を読み切ったので比較的機嫌がいいのか、昨日と同じ説明を快くクロウがする。
「そうだ、アキ。この花のこと何か知らないか?」
「貰った人に聞いてないの?」
「聞いたけど忘れちまった」
「もう、しょうがないわね」
 アキは花瓶に近づいて花をしげしげと見つめた。
「これはチトニアっていう花よ」
「おお、そうなのか。流石ブラックローズ・ドラゴンの使い手だけあるぜ」
「ブラックローズは多分関係ないと思うけど。……そうね、この花」
 アキが一瞬考え込んで、言葉の後に続けた。
「この花、古代インカ帝国の国花だったそうよ」


『これは俺の我がままだろうか。願いはいつか叶うのだろうか―――』

 彼の願いは叶い続けるのだろうか。これまでも、そしてこれからも。

 太陽の花が風になびいて揺れている。

(END)

2011/2/21
作品名:太陽の花 作家名:うるら