魔女と星と
確かに、口にするだけでとんでもない勇気がいるこのパスワードは、よほどの覚悟がないとほいほいと使えないだろう。
アキによる被害は格段に減るに違いない。違いない、の、だが……。
土日も両親が留守がちなので、暇な日は朝のあの時間帯の番組を通して見ていたりする。番組に出てくるような変身機能も付けてみたかったが、どうしても軽量化がネックになってしまっていた。
そんな遊星の補足説明は、アキの耳を右から左へと通り過ぎて行った。
遊星は、アキが思っていたよりもずっと真面目で凝り性だった。アキにとって不運だったのは、遊星が自分の計画を実現できる優れた才能と知識を持ち合わせていたということだけだ。
「おー、すげー、変身アイテムも作れるのか遊星!」
「ああ。材料が揃えばな」
「俺にも作ってくれ! そうだな、○○レンジャーのようなかっこいい奴をだ」
「だが、決闘をする時に邪魔になるぞ。携帯電話や腕時計型のアイテムは」
「そんなもの、デュエルディスクに組み込んでしまえばいいだろう」
「――ああ、その手があったか」
「よし! それなら今日から俺たちは「五竜戦隊ファイブディーズ」だ!」
「……! ちょっと、それ私もメンバーなの!?」
「当り前だ!レンジャーにヒロインは必要不可欠なものなのだ!」
「メンバーが足りねえぞ。最低でも追加メンバーが一人か二人と、司令官がいるだろーが」
「巨大ロボットも必要だな」
どこからともなく降って湧いた話に、ツッコミを入れるのがやっとのアキ。
しかし、すぐに思い直した。
一人で、しかも素顔をさらして魔法少女をするのは例え好きでも小恥ずかしい。だが、戦隊ものは大体が集団行動だ。それに素顔はマスクで隠れるし、気を付けていれば自分とはばれないはず。
アキは、そっと視線を三人から外した。
道連れは、多い方がいい。
「デュエル・アカデミア、ネオドミノ校?」
ネオドミノシティにあるキャンパスは、アキの家からは割と近く、家からでも通える。MIDSのあの建物に比べれば、地図を見なくても迷えず行ける距離だ。
あの日、アキの父親は最初からネオドミノ校を勧めるつもりでパンフレットを渡して来たのだ。あの絶海の孤島はあくまでキャンパスの一つであり、落ち着いて次のページをめくれば、街中にデンと立ったネオドミノ校のキャンパスが現れるはずだった。
パンフレットをきゅっとつかんでアキは言った。
「パパ。ママ」
「ん?」
「私……がんばって行ってみる」
アキはその後、デュエル・アカデミアであの友人たちとクラスメイトとして再会することになる。
そこで追加戦士の双子の兄妹と司令官の上級生を加えて本当に五竜戦隊ファイブディーズを結成。ネオドミノに襲来した地縛神や何やらと戦うことになるのかは……読んだ人の想像にお任せしたい。
(END)
2011/2/22