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「こんにちはー、竜ヶ峰さーん。宅配でーす!」
扉の向こうで張り上げられた声を耳にし、竜ヶ峰帝人は緩慢な動作で立ち上がると、パタパタと玄関口へ小走りに向かった。
広くも狭くも無いマンションの一室の廊下は短く、数歩進めば直ぐに辿り着いてしまう。
カチャリ、鍵を外して玄関扉を開くと、声に似つかわしい、爽やかな笑顔を浮かべる青年が額の汗を拭おうともせずに荷を持って立っていた。
「あぁ、済みません、ご苦労様です。」
「こちらの伝票にサインを頂けますか?」
未だ残暑の厳しい、秋の中頃。こうも連日のように晴天が続けば暑いだろうに、笑顔1つ崩さない姿勢に帝人はプロ意識を見た。
「はい、お手数お掛けしました。」
「まだまだ暑いですし、体調には十分お気を付け下さい。それでは、ご利用有難う御座いました!」
颯爽と去って行く背までが若者らしく、活気に溢れている。良い目の保養になった、と渡された荷物を下げようと扉を閉めて腰を屈めた。
が、如何せん、重い。予想以上の重量に目を瞠り、送り主の名を伝票で確認した。
間違いは無いのだろうが、こんなものが届くなどとは微塵も聞いていない。
兎にも角にも、リビングまでは運ばねば話にならないと、力仕事に全く縁の無い生活をしている帝人にとっては重労働な、ダンボールを押して広い部屋へと入れた。
(さて、一体何が入ってるんだか・・・)
既に開封する前段階から疲労の色濃い帝人ではあったが、中身への好奇心はそれに勝った。
『刃物厳禁!』、の貼り物があるので、カッターは駄目かと、慎重にガムテープを剥がす。
ゆっくりと開くと、中には布の塊があった。何となく、この時点で嫌な予感が薄ら差した帝人は見なかった事にして送り返そうかとも思ったが、開いてしまった以上、中身は確認せねばなるまいと、恐る恐ると言った調子で布を捲った。
そうして現れた物を目にした帝人は、思わずその場に膝を着いた。
(・・・・・・っ、騙され、た・・・!)
握った拳が怒りでフルフルと震えていた。



 事の発端は間違いなく自分が仏心を出してしまった事だと、帝人はあの時を振り返り唇を噛む。
大学生の帝人はひもじくも無ければ、裕福である訳でも無い。
力仕事に不向きな身体付きの為、日々の糧は専らネットビジネスで賄っている。幸いこれが帝人に向いていたらしく、貯蓄に余裕はある。
学業とバイトを両立させながら日々を送っている帝人は、将来何時かに備えて貯蓄をしており、"他人に金を貸す"、などという行為は脳内に存在しない。が、帝人は基本、友人に甘かった。
『頼む帝人!俺、今月超苦しいの!!5万で良いんだ、絶対返すから、俺に貸してくれ!!』
人工的に染まった金糸が揺れた。帝人はカフェの向かいの席で呆れたように男を見る。
『またなの?正臣。全く、いい加減にちゃんとしないと彼女さん泣くんじゃない?』
『そんな話は良いだろー、彼女の居ない帝人君。』
『・・・さて、僕は帰ろうかな。』
『御免なさい帝人様!冗談です!!』
『これで何回目?確かに今までちゃんとお金は返して貰ってるけど・・・ホイホイ貸してた僕も良く無いんだよね。と、いうことで今回はNO。』
『これっきり!これっきりにするから!!そこを何とか!!帝人ぉぉぉ!!!』
突っ伏してオイオイと泣き始めた男、紀田正臣は帝人の幼馴染だった。
小学校の時からの知り合いなのだが、彼が小学校卒業頃に引っ越したので、高校入学時に再会するまでは少し間がある。
幼少期は頼れる帝人のヒーローだったのだが、どうやら彼は若干鬱陶しい方向に成長したらしく、今では彼等の掛け合い漫才は周囲にとっての1つの見世物となっている。
暫くは放っておいた帝人だったが、いつまでも泣き止まない様子に、嘘泣きではあると分かってはいても鬱陶しくなり、深々と溜息を吐いた。
『・・・・・・僕だって、余裕がある訳じゃあ無いんだからね。早めに返してよ。』
ぶっきら棒に言った帝人の言葉に正臣は顔を上げた。その目元には涙の跡など欠片も見えず、やはり嘘泣きか、と帝人は更に呆れた。潤んではいなかったが、瞳が爛々と輝いている。
『恩に切るぜ、帝人!そうだ、お礼、と言うかまぁ、手形みたいなモン?1週間後にある物を送るわ。』
『ある物?何?』
『まぁまぁ、それは見てのお楽しみ!!いやぁ~、俺は本当、良い親友を持ったなぁ!!!』
問題解決!、と伝票をサッと取り、鼻歌スキップでレジへと向かっていってしまった。
とんでもなく上機嫌な正臣の様子に、帝人は早まったか、と些か後悔したが、約束してしまったものは仕方が無いと、生来の諦めの良さで溜息1つで片を付けた。
貸した5万がどのような用途で使われていようとも、それが自分の下に返ってくるのならばそれ以上の詮索は拙いだろう。
そのツケが、1週間後に回ってくるなどと、帝人は夢にも思っていなかった。



 ダンボールの中には、大きなゲージが入っており、更に中には、何かが居た。
大型犬を入れる為のゲージのような大きさだが、何かは、否、何か達は丸くなって寝ているようだった。
ゲージ、ならば動物なのだろうが、これを動物と分類するのかどうか、帝人は迷った。
中には2つの塊がある。1つは小麦色の耳とふさふさした長い同色の尻尾。ピンと垂直に立った耳がまるでアンテナのようだ。もう1つは漆黒の耳に、スラリと毛並みの良い尻尾。こちらの耳はへにゃりと寝ている。
穏やかに眠る2つの塊。耳と尾だけ見るならば猫、なのだが、問題はその身体だった。
「これ・・・人間なんじゃないの?!」
想像していただけるだろうか。推定5歳程の幼児の頭と臀部に、人には有らざる獣の耳と尾が生えているのだ。
帝人は驚いて腰を抜かした。気を遣う事が全く出来なかったから、フローリングの床にその音は大きく響いた。

と、それに反応したのだろうか、漆黒色の耳がピクリと動き、ゆっくりと起き上がる。
開かれた目蓋の裏には深紅の瞳。烏の濡れ羽色の髪が日を取り込んで艶を増した。
ジッ、と見上げてくる瞳は彼を全てを見透かそうとしているようで、帝人は曖昧に笑って誤魔化すしか術が見当たらなかった。
ピクピクと動く耳と容姿は愛らしかったが、混乱が最高潮に達している帝人にはそれを手放しで飛び付ける程の余裕が無い。
「・・・きみがミカドくん?」
そうして零れた音は、幼児特有の舌足らずな口調と高めの声で、その上しかと人間の言葉を喋っていた。
どうして僕の名前を・・・?、と真っ当な問いさえ言葉にならず黙る帝人を置いて、ソレは話す。
「おれのなまえはいざや。きょうからここにすんであげる。ちゃんとおせわしてよね。」
は?世話?誰が、誰を?
混乱を来たした帝人は、言葉を忘れたようにその生き物を凝視した。
「とりあえずここからだしてよ。」、と不遜な態度で言われ、何が何だか分からないままそっとゲージを外してやる。
そこで、漸く片割れの騒々しさに目を覚ましたのか、小麦色の耳を持つもう1つの塊がのっそりと起き上がった。
目の覚めるような黄金色の髪、透き通った琥珀の瞳を持つソレは、寝起き特有の気だるい雰囲気を纏って帝人を見上げた。先に名乗ったいざやより、一回り大きい。。
「・・・ぉ、はよっ・・・。」
「おっ、おはよう。」
作品名:育児書は存在しません! 作家名:Kake-rA