行きはよいよい帰りは怖い
「いいから弟の話を聞いてろ。意味が分かる」
「ふぇ?!」
デリ雄の言葉が理解できずにサイケ幽の方を振り向く。サイケ幽は目元を細めて微笑を零すと、帝人の耳に吐息を零すかの様に話し出した。
「この世界の人間は迷い人を帰す。けれど帰すためには順序を踏むんでもらうんだ」
「じゅんっじょっ?」
帝人は先程からデリ雄から与えられるむず痒い感覚に耐えながら言葉を紡ぐ。
意識をほかの方へ持っていかないと、あられもない声を上げそうだった。
「初めて助けを求めた人間とつながりを持つこと」
「つながぁ、りぃ?」
「そう、要するにセックスかな?」
サイケ幽の言葉に帝人は言葉を失った。デリ雄が生む濡れた音が部屋を包み込む。
「え、え、そんなっえ?!」
「それがいっちばん早く帰れる方法。あ、あとは法的に家族とかなってとかあるけど。それは時間掛かるから」
サイケ幽の言葉が帝人の数多の中で反芻する。鈍器で殴られたかのように頭痛がした。
「だから、帝人君は兄貴と繋がらないと駄目、なんだよ」
にっこりと笑うサイケ幽。帝人は自分の指を丹念に舐めていたデリ雄を振りかえる。
デリ雄はにたりと嘲笑的な笑みを浮かべると帝人の頬に自分の手の平を当てた。その手が頬を撫で、首筋を通る。
官能的な仕草と表情に帝人は喉が引きつる思いを味わった。絡みつくような熱が下腹部にたまる。
「ぼ、僕男ですよ!?」
最後の望みを掛けて悲壮な声を出しながら、帝人はデリ雄を見つめた。
デリ雄は一気に帝人と距離を近づけ、2人の鼻先がぶつかる。
「それがどうした。俺は、お前が良いんだよ・・・帝人」
帝人は迫るデリ雄の顔が、唇が、こま送りのように見えた。
作品名:行きはよいよい帰りは怖い 作家名:霜月(しー)