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墓を掘るなら早いほうがいい

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 アレ、なんとかしろよ。という阿部の文句の先、水谷はやたらに分厚い本を机に置き、女子生徒とうきうき話をしています。
「水谷君のお姉さんとか結婚するの?」
「あー、これはおれがするときにねー、」
「へぇ〜、水谷君のお嫁さんになる人は幸せだね」
 お嫁さんになるのはおれなんだけど、と水谷は言いませんでした。オープンにしてもいいことと、してはいけないことの区別をつければ、ちょっと変わってる人、程度の印象で済みます。変態というレッテルはなんとか貼られずにすみます。小1と、つい最近の教訓が微妙に生かされています。
「……お前何見てんの?」
「あっ、栄口、あのねあのね!」
 ご丁寧に付箋など貼ってらっしゃる。お前それ、教科書とかノートに貼れよ。呆れ返る栄口に、水谷は熱心にお気に入りのページを説明してきます。ウェディングドレスがずらっと並ぶそのページに、栄口は自分の笑顔が凍りつくのを感じました。水谷は本気です。
「水谷、オレそういうのはさ、」
「さかえぐちはぁー、どういうのがいいのー?」
 もうどうでもいいです、勘弁してください。心の白旗を揚げたい栄口に、ふとその雑誌の一文が目に入りました。その言葉は渡りに船。言ったら、式だの会場だのお色直しだの、すべてが丸く収まるかもしれません。

「心のこもった手作りウェディングにしたいんだ……」
 げんなりとした声なのに、水谷には栄口がひどく真剣なように感じました。
「うれしい!おれもそう思ってたんだ」
 ふたりでいろいろ考えよ?ばん、と威勢良く閉じられた雑誌はもう、床の上に投げ出されました。両手で頬杖をついてにこにこしている水谷が、平たく言うととてもうざい。
 栄口がため息をひとつつくと、やたら笑顔の阿部が近くに寄ってきました。この話題を変えることを期待している栄口にとって、阿部は神様のように思えます。が、阿部は神様なんかじゃありません。阿部様です。
「心のこもった手作り」
「……聞いてたんだ」
「栄口、今日の心のこもった手作り鍵当番お前だぞ」
「阿部……」
「心のこもった手作り日誌書くの忘れるなよ」
「…………。」

 かくして西浦高校野球部に「心のこもった手作り」が流行りだしました。
 よかったね栄口。75日過ぎなくても、前の流行語が終わってくれて!