ファズ
―ファズ―
廃墟と化した街を、その風景にそぐわぬ紅いコートを纏った男が闊歩する。
かつては賑わっていたであろうこの街も、今ではそこかしこに悪魔の気配の漂う地となってしまった。創世の為の破壊。しかしそこには理不尽な秩序を是も非もなく受け入れざるを得なかった、かつてここで生活を営んだ人々の悲しみしか感じさせない。
男はその理不尽が許せなかった。だからこそ、胡散臭い老人の依頼をあっさり受諾してみせたのだ。
――― やれやれ。
男は深いため息を吐いてから、懐に手を伸ばしてある物を取りだす。
彼の手の中に大切に握られていたものは、一枚のコインだった。それはただのコインではなく、その両面ともに同一の紋様が刻まれた、両表のものである。その特殊なコインを天上に座し蒼白い光を放つ球体――カグツチ、と言うらしい――に翳す。その不気味な輝きに、男は眩しげに目を細めた。
――― こりゃ当分帰れそうにないぜ、ネロ・・・・
あたかも返事をするかのように、コインはきらりと光を反射して見せた。男はふと、出立の日に想いを馳せた。
廃墟と化した街を、その風景にそぐわぬ紅いコートを纏った男が闊歩する。
かつては賑わっていたであろうこの街も、今ではそこかしこに悪魔の気配の漂う地となってしまった。創世の為の破壊。しかしそこには理不尽な秩序を是も非もなく受け入れざるを得なかった、かつてここで生活を営んだ人々の悲しみしか感じさせない。
男はその理不尽が許せなかった。だからこそ、胡散臭い老人の依頼をあっさり受諾してみせたのだ。
――― やれやれ。
男は深いため息を吐いてから、懐に手を伸ばしてある物を取りだす。
彼の手の中に大切に握られていたものは、一枚のコインだった。それはただのコインではなく、その両面ともに同一の紋様が刻まれた、両表のものである。その特殊なコインを天上に座し蒼白い光を放つ球体――カグツチ、と言うらしい――に翳す。その不気味な輝きに、男は眩しげに目を細めた。
――― こりゃ当分帰れそうにないぜ、ネロ・・・・
あたかも返事をするかのように、コインはきらりと光を反射して見せた。男はふと、出立の日に想いを馳せた。