ファズ
「仕事か?」
愛刀を携え事務所の扉に手をかけたダンテの背後から、声がかかる。振り向くと、そこには不機嫌そうな表情のネロが立っていた。出会った頃に比べれば、外見的にも内面的にも逞しくなったななどと呑気にダンテが考えていると、ネロは呆れ顔で溜息を吐いた。
「また何も言わずに行くつもりだったのか?」
ダンテが何も言わずに仕事に出かけるのはこれが初めてではない。それどころか、危険を伴うような仕事に行く時には必ずといっていいほど黙って出掛けていくのだ。ネロにはそれが不満だった。信頼されていないような気になるのだ。
かつてのネロであれば、どんな仕事であろうと、ダンテが何を言おうと聞く耳も持たず付いていくと言い張っただろう。ダンテの傍で経験を積んで強くなりたいという気持ちと、何よりダンテに認められたいという気持ち。それらがネロを強情にさせていた。そんなネロの態度を嫌ってか、ダンテは何も言わずに仕事に行くようになっていった。だが、それももう昔の話。来るなと言われれば無理についていこうとも思わないし、手助けが必要ならそう言ってほしい。ネロが不満に思うのはそこだった。いつまでも守られいるばかりの存在ではなく、仕事仲間として対等に扱ってもらいたい。まして普段は別々に暮らす自分たちのこと、ともに仕事に赴く機会など殆どないのだから。
じっと見つめるネロの視線に、ダンテは苦笑を洩らす。はぐらかしてさっさと出掛けるつもりなのだろう。ネロの気持ちに気付かないほど、ダンテは鈍くはない。知ってなお、黙って出ていこうとしているのだ。そんなダンテを行かせまいと、勢いよく右腕を伸ばして捕らえてから、距離を詰めた。ダンテは観念したように、近づいてくるネロを大人しく見つめていた。
「どうしたんだ、ネロ?」
「アンタがいっつも黙って出ていくからだろ。どこで何をするのか何てことが聞きたいんじゃない、ただ、アンタがどうしていつも俺に何も言わずに行くのか・・・・、それが知りたい」
「なるほどな」
ダンテは暫し逡巡するが、その視線が意志の堅いネロの眸とかち合うと諦めたように笑みを零した。
「聞いたら笑っちまうような理由だぞ?」
「いいから言えよ」
出会った頃よりも凶悪さの増した顔で凄まれて、ダンテは思わず苦笑を洩らす。どうも近頃は、より怖ろしさが強化されてきている気がする。
「・・・・お前を失いたくはない」