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【けいおん!続編!!】 水の螺旋!!! (第二章・疑惑)

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(第二章・疑惑)

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 穏やかな春の季節といっても、その様相は時期によって異なる。3月ごろからは梅の花がささやかに町の景色を彩るが、4月になると桜が取って代わり、もっと華やかに景色は飾られる。ところが、4月も中ごろになると桜は次第に散ってゆき、あとは新緑に町は染められる。ついこないだまで、ピンク色をしていた景色も、4月も終わりとなった今では緑色へと変わり、その色は夏に向かって、その色を深めていくようだ。

 そんな町の一角に、カフェ『プレシャス・ブレイク』はあった。店にはカウンターで元気いっぱいに接客をしている女性。彼女も、桜ケ丘女子高等学校の卒業生であった。

 立花 姫子という名のこの女性は、唯たちの元同級生である。卒業後は警察官を目指して専門学校に通いながら、このカフェでアルバイトに励んでいる。

 風貌や顔つきは多少、巷で流行りの生意気な女子といった感じだが、元来マジメでしっかり者の彼女は、カフェでの仕事も普段から頑張って取り組んできた。しかし、最近はいっそう輪をかけて、アルバイトが楽しくなってきた。ウキウキしながら仕事に励んでいることが自分でも分かる。自分でも気恥しくなるぐらいだ。

 そのウキウキの原因が、今日も店にやってきた。自分と同じくらいの年頃の男性。一見好青年っぽい雰囲気を漂わせながら、一本芯の通っていそうな男性的で力強い顔つきをしている。要は、姫子は毎日店に来るこの男に一目惚れしているわけだ。

 その男性は、姫子のもとへ来るなりカプチーノを注文した。男性的な顔つきでありながら、カプチーノのようなソフトな飲み物を注文するところも好きだった。後ろのドリンクホルダーでカップにドリンクを入れ、トレイに乗せて手渡す。満面の笑みで「ごゆっくりどうぞ」と云うと、男性は伏し目がちに軽く会釈をして席へと歩いて行った。

 次の客が待っていたので、その男性をずっと見ているわけにはいかなかった。早く接客を済ませて、あの男性を見たい気持ちでいっぱいだった。かといって、おざなりの接客をするわけにはいかない。ひとりひとり誠心誠意まごころこめて、これが彼女の職場でのモットーであった。

 やっと注文待ちの客が引いたので、姫子は男性の方を見た。男性は何やら一心不乱に本を読んでいた。テーブルの上のカプチーノのことなど忘れてしまっているかのようだ。私の淹れたカプチーノなんか、どうでもいいの?と思うと、少々悲しくなった。それにしても、あんなに一生懸命になって、何を読んでいるのだろう。

 空いたテーブルを拭きに行くときに、ちらっと本を見てみた。通りざまにちらっと見ただけなので、どんな内容かまでは分からなかったが、文の中に「遺伝子」「DNA」という単語が入っているのが目についた。自分にはあまり馴染みのない言葉だ。ふうん、難しい本読んでるんだなぁ。アタマのいい男性って、ステキよね。彼女はテーブルを拭きながら、彼女はフフッと笑った。こんなことを考えていると背中がむずがゆいような気分になってくる。

 姫子がカウンターに戻ってしばらくすると、例の男性がトレイを返しにやってきた。姫子はカウンターごしに、男性に向かって「ありがとうございました」と云った。男性は少し戸惑ったように「ああ、はぁ」と答えた。
 今、新たに来た客はいないし、店内に客も少ない。話しかけるなら今だ。姫子は勇気を出して、男性にマニュアル以外の話を仕掛けることにした。

「あの…、いつも来て下さってますよね」

 男性は相変わらず少し戸惑った風で、「ええ、まぁ」と答えた。

「今は学生ですか?」

「ええ、まあそんなとこです」

 男性がようやく会話らしい返答をしてくれたので、彼女は嬉しくなった。もう少し話したい、そう思った。

「あの、その本…」

 姫子は男性が抱えている本を見て云った。

「え、何か?」

「あ、いえ、何でもないです。すみません。またいらっしゃってください、アハ…」

 男性が店を出て行った後で、彼女はため息をついた。
 話しかけたこと、迷惑だったかな…。

 布巾を片手に、男性の座っていたテーブルを拭きに行く。と、足元を見ると、一つ折りになった紙切れが一枚落ちていた。あの人が落としたものかしら。姫子は紙切れを拾い上げて、開いてみた。紙切れには、ボールペンで文字が書き込まれていた。一番上には人の名前。下にはその人のものと思われる住所。そして、さらに下には何やらアルファベットの羅列が25ほど続いていた。そこに書かれている名前を一目見て、姫子ははっと息を呑んだ。

 そこには、『平沢 唯』と書かれていた。

 平沢 唯って、あの唯かしら。高校3年のころ、一緒のクラスで席が隣だった、あのほわっとした感じの子。だとしたら、どうして?あの人と唯って、どういうつながりがあるの!?

 そんなことを考えながら、姫子はその紙切れをたたんで、誰にも気づかれないようにズボンのポケットに入れた。

 バイトが終わり、姫子は夜の10時ごろ家に帰った。自室のベッドの上にドスンと寝っ転がり、ズボンのポケットをまさぐる。取り出したのは、あの紙切れだった。紙切れを開いて、もう一度ボールペンで書かれた文字を見る。間違いなく、『平沢 唯』とあった。てことは、この下の住所は、唯の住んでいるところなのかしら。バイト先から、そう遠くはない。あの人は唯に会うためにこの付近まで来たついでに、うちの店に寄っているのかしら。

 となると、唯とあの人との関係って何?まさか、恋人!?いや、それならわざわざ紙切れなんかに住所をメモしておく必要はない。第一、あの唯に恋人だなんて。確かに、結構可愛い顔をしているし、雰囲気にも可愛げがあると思うが、だからと云って、恋人を作ったりというのはまったく想像できない。いや、そもそもここに書かれてある『平沢 唯』があの唯だとは限らない。同姓同名の別人という可能性もある。

 出口のあろうはずもない、釈然としない自問自答を彼女は繰り返していた。なんとしても、真実を確かめたい。だが、どうすればいいのか、彼女にはまったく分からなかった。唯一の手段は、あの人が店に来た時に直接訊くことだ。でも、余計な詮索をする女だと思われたら…。唯に訊く方法もあるが、わざわざこの住所を訪ねて行くのも気が引けるし、かといって卒業アルバムの名簿から実家の連絡先を調べて、連絡を取るのもなんかおかしい。ああ、せめて、唯がひょっこり私の前に現れてくれないだろうか。

 姫子はふと、紙切れのもうひとつの記載に目が止まった。そういえば、名前と住所以外にもまだこんなのが書き込まれていた。


  -GCAGTGCATAGTGATCAGTGCCCTA-


 一見、ただのアルファベットの羅列だ。“AGTG”の部分が三ヶ所、丸で囲まれている。確かにAGTGと続いているのは、この三ヶ所だけだ。けど、これは何なのだろう。考えられるとしたら、何かの暗号だ。そうだとすれば、何が書かれているのだろう。解読できれば、何か分かるかも知れない。