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【けいおん!続編!!】 水の螺旋!!! (第二章・疑惑)

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 澪をはじめ、放課後ティータイムのメンバー全員が店を駆けだしていく唯を呼び止めたかったが、みんな喉がつかえて、声が出なかった。

 姫子はその場にうずくまって、ベソをかいている。



 7



 深夜、憂の家に澪、律、ムギ、梓、姫子、そして和は集まっていた。

 あの後、店のマスターが警察を呼び、澪たちは軽い事情聴取を受けた。が、警察もどういうわけかそこまで追求しようとはせず、形式的とも思える質問を2, 3しただけで、彼女たちは解放されたのだった。

 澪たちは解放されてすぐ、憂に『唯のことで話があるんだけど、今から家に行っていいか?』という内容のメールを送り、その足で憂の家にやって来たのだった。

 憂の家には和もいた。和は憂のことを気遣って、先に家に来ていたのだった。

「悪いな、憂ちゃん。こんな時間に」

 すまなさそうに笑う澪の顔は、唇の端が切れて出血し、顔の側面にもあざができていた。他のメンバーにも、澪と似通った怪我があった。本来、憂は彼女たちの傷の手当てをするところなのだが、今の憂にはそこまで気を配れるだけの精神的余裕はなかった。

「いえ、大丈夫です。それよりお姉ちゃんのことで話って…」

 澪は事の顛末を話した。スタジオに出てからの唯の反応、そして唯が姫子と出逢いバーに行ったこと、唯の尾行の最中に自分たちが見知らぬ男性に声をかけられ、脅迫のような圧力をかけられたこと、そしてバーの中で起こったこと…。

 ひととおり話し終わった後、周囲はしばし沈黙にさらされた。重たい空気が場を包む。
しばらく後、ようやく口を開いたのは和だった。

「唯はその男性のことを、たしかに“リン”って呼んでたのね」

「ああ、そうだったと思う」

 “リン”…、聞いたことのある名前だ。

 和はさらに続ける。

「その状況からみて、唯が何かに巻き込まれているには間違いないわね。そして、唯がその男性を手も使わずに吹き飛ばしたって話が本当なのだとしたら、それは私たちの常識をはるかに超えた、超絶的なものだわ」

「唯ちゃんが巻き込まれているものって、何かしら?」

 ムギが訊いた。

「さあ。それは私にも分からない。だから、唯を助けようと思ったら、まず唯が直面しているものが何なのか探らなきゃ。そのために、ひょっとしたらみんなの力を借りることもあるかも知れない。いいわね、みんな」

 澪、律、ムギ、梓の四人は不安そうな顔を向けながら、それでも力強くうなずいた。姫子は首を縦にも横にも振らなかった。和は、姫子に関してはそれでよしとした。姫子は唯との関わりは、ここにいる他のメンバーと比べてかなり薄い。あえて巻き込まない方がいいかも知れない、と思った。

 ただ、膝に顔をうずめたまま首を振らない憂のことは少し気になった。

「ありがとう。それじゃあ、とりあえず明日、手がかりがないか探しに、憂と唯の部屋に行ってみるわ。憂、唯の下宿先の合鍵は持ってるわね?」

 和が聞いたが、憂は答えない。沈黙の中、嗚咽とも思える憂の息遣いだけが聞こえてくる。

「…無理だよ」

 ようやく憂が、弱々しい声をあげた。

「無理だよ、私たちには。お姉ちゃんを助けることなんて、できっこないよ!」

「憂、唯を助けてあげたくないの?」

「そりゃ、できるならそうしたいよ。私はいつだって、お姉ちゃんのそばにいて、お姉ちゃんを見守ってきた。これからもずっと、お姉ちゃんのそばにいたかった。でも、お姉ちゃんは私たちの手の届かないところに行ってしまったんだよ、和ちゃん。私たちには、どうすることもできないんだよ!」

 その瞬間、和は憂の頬を平手で打った。バシン、と音がして、憂はその場に倒れ込んだ。

「憂!?」

 と梓は憂を抱き起した。和は憂を睨みつけながら、声を荒げた。

「いつまで落ち込んでるのよ!あなたがしっかりしないでどうするの。たったひとりの姉が悩みを抱えているなら、それを解決してあげようとどうしてしないの?私たちの中で、本当の意味で唯の心の支えになれるのは、肉親であるあなたしかいないのよ。そのあなたがいつまでも落ち込んでちゃ、何も始まらないでしょ!」

 それから、和は声を和らげた。

「いい?唯を助けたいのなら、まず誰よりもあなたが元気にならなきゃ。それで、今の唯を受け入れてこそ、唯もきっと心を開いてくれるわ」

「和ちゃん…」

 憂は和に抱きついて泣きだした。和は左の手で憂の頭を撫でながら、みんなに云った。

「とりあえず明日、私と憂で唯の部屋に行ってみるわ。何か分かったらまた連絡する。…今日は遅いから、もう帰りましょう」

 和の号令で、みんな立ち上がった。帰り際、姫子が和に話しかけてきた。

「真鍋さん、私にも何か手伝わせてもらえないかしら。みんなが巻き込まれたのは私の責任だし、それに私も唯ちゃんが心配だから…」

 和はふっと穏やかな笑顔を姫子に見せた。

「ありがとう、立花さん。手伝ってもらうことが何かあったらお願いするわ」

 姫子は、ジャケットのポケットから、例の紙切れを取り出した。

「一応、これ渡しておくね。あの人が落としていった紙切れなんだけど。もしかしたら、何かの手がかりになるかも」

「ありがとう。預かっておくわ」

 ここにいるメンバー全員が、唯の力になることを誓った瞬間であった。