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【けいおん!続編!!】 水の螺旋!!! (第二章・疑惑)

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 唯はグラスに顔を近づけて、カシスオレンジをまじまじと眺める。

「おぉ…、オレンジと、紫…」

 と、観察物の色をそのまま口に出した。次に、グラスの横に置かれていた、黒い棒状のものを手にとって、これも訝しげに眺める。

「これは…ストロー?あ、でも穴が開いてないや」

と初めて見る物体に、ひとり興味津々である。

 姫子は気を取り直して、

「唯、それはマドラーっていうの。それで混ぜてから飲むのよ」

と教えた。

 唯はそれに従って、オレンジと紫の混ざった液体を、口の中に流し込んだ。

「あ、おいしい」

 唯はおもむろに笑顔になった。姫子はこれが、今日会って初めて見せた、唯の純粋な笑顔のような気がした。そういえば、これまで唯は落ち込んでいる様子が顔にも出ていた気がする。それが、たった一口のカシスオレンジで、ここまで気分よくなれるなんて…!
 でも、人の機嫌ばっかりうかがってても仕様がない。姫子は姫子で、確認しておかなくては夜も眠れない悩みがあるのだ。思い切って、唯に尋ねてみることにした。

「唯、実はね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「うん、何?」

「ごめん。今日道でばったり出くわしたから、どうしても確認したくなっちゃって。今日ここに誘ったのも、実はそのためなの聞きたかったからなの」

「だから、何のこと?」

 唯はカシスオレンジの美味しさにもう酔ったのか、警戒心もなく、笑顔でさえある。姫子はこの様子じゃ不審に思われることもないだろう、と少し安心しながら話を続けた。

「実は私、今カフェでバイトしてるんだけど」

「へぇ~。何てところ?」

「『プレシャク・ブレイク』ってお店なんだけど。多分N女子大の近くだよ」

「うーん…、知らないなぁ」

「そう?で、実はそこに来てくれている常連のお客さんが、ひょっとしたら唯の知り合いかも知れないの」

「えっ、本当に?誰誰?」

 唯は食いついてきた。姫子はここで、ポケットから例の紙切れを取り出す。

「ここに書かれている“平沢 唯”って、唯のことだよね?」

 紙切れを見たとたん、これまで朗らかだった唯の顔色が変わった。表情も険しくなっている。

「…姫子ちゃん。これどこで?」

「え、バイト先の常連さんが落としていったものなんだけど」

「これ、あの人が書いたものだね」

 あの人…。やっぱり唯はあの男性を知っているんだ。

「姫子ちゃん、悪いことは云わない。あの人には関わらないで」

「関わらないで、って…」

 唯の言葉は姫子にはショックであった。

「…どういうこと?あの人と私がどう関わろうが、唯には関係ないんじゃないの?」

「姫子ちゃんのために云ってるんだよ。あの人に関わるのはよくない。関わったら…」

「関わったら、どうなるって?」

 唯の背後で声がした。振り返ると、今まさに唯たちが話題にしていた人物が目の前にいた。



 6



 立ったまま女を見下ろす男と、座ったまま男を見上げる女。火花を散らしそうな、互いの視線の中で、唯は一語一語、言葉を区切るように切り出した。

「なぜ、ここにいるの?凜くん」

 この男性は、凜という名前らしい。凜というらしい男は、唯を見下すような目で答えた。

「別に。たまたま君を見かけたんでね。あと、しゃしゃり出てくる連中に、忠告もしてやりたかったのさ」

 凜というらしい男はギロッと姫子の方を睨んだ。姫子はヒッと云って、身を縮めた。

 彼はさらに、後ろを振り返った。その視線のほうへ目をやると、放課後ティータイムのメンバー四人が並んで立っている。

「みんな…」

 呆気にとられたふうで唯が呟く。

「こいつら、君を尾けてきていたみたいだぜ」

 澪が唯に向かって云う。

「ご、ごめん、唯。私たち、唯のことが心配だったから…」

「黙ってろ!!」

 凜という名の男は澪を怒鳴りつけた。澪たち四人の身体がビクッと硬直した。

「凜くん、お願いだから、みんなを巻き込まないで…」

 唯は懇願するように云った。

「別に俺は巻き込むつもりなんてない。こいつらが勝手に巻き込まれようとついてきたんだ。だから、ついてきたらどうなるか、こいつらに教えなきゃならない」

 男はそう云って、律と澪に向かって右手を押し出した。律と澪は、一度に押されて、その場に倒れ込んだ。

「だめっ」

と云って、ムギが男の片腕にしがみついた。男はムギを振りほどこうとしたが、ムギはしがみついたまま男の腕を押さえこんで、離れない。

「コイツ、力だけは強いな」

 男は思いっきり、腕を横に薙ぎ払った。ムギは吹き飛ばされてテーブルに激突し、テーブルごと倒れた。続けざまに、梓も頬を殴られて、その場に倒れ込んだ。

「やめて!!」

 唯は泣きそうな声をあげた。だが、男は唯に構うことなく、姫子のところまで歩み寄って来た。

 そこへ、店のマスターが声をかけてきた。

「お客さん、困りますよ。店で暴力沙汰を起こされちゃ!」

 マスターはそう云って、男に近づいてきたが、彼が殺気のこもった視線で睨みつけたので、彼の足は止まった。

 男は再び姫子の方へ向き直った。

「やっぱり紙切れはテメエが持ってたのか。泥棒した上に、探偵みたいなマネゴトしやがって。ナメたマネしてると、どういうことになるか思い知らせてやる」

 といって、姫子の胸ぐらを掴んだ。姫子の身体は男の腕に引き上げられて、つま先が立つか立たないかギリギリのところまで浮いた。

「やめて!!!!!」

 唯が再び叫んだ。二度も云われて癇に障ったのか、男は姫子から手を離し、

「あ!?」

といって唯の方に向き直った。姫子はその場に倒れて尻もちをついた。

「何だ、文句があるのか、コラ!」

 唯に凄み寄る男。

 まさに、男が唯を殴りつけようとしたその瞬間!

「これ以上、私の友達を、傷つけないで!!!!!!!!!」

 唯が叫んだ瞬間、唯の身体から爆風が飛んだ。男は飛ばされて、後ろの壁に激突した。激突した衝撃で、木造の壁がメキッといって割れた。

 姫子は唯を見上げた。目の前の唯は、今まで自分が見てきた唯とはまるで違った。近寄りがたいオーラのようなものが身体全体を纏い、瞳には殺気がこもっている。しかし、しばらくすると、唯をまとっていたオーラは消え、瞳もいつものように、無垢な子供のように穏やかになった。

 唯は放課後ティータイムの仲間たちや、姫子を見渡して、

「あ…」

と絶句した。自分のばれてはならない秘密を見せてしまったことを後悔するように。

「痛ててて…」

 と云いながら、男は立ち上がった。そして、唯の方を見てニヤッ笑った。

「少しは力が出るようになってきたじゃないか。だが、まだまだだな。もっと訓練をする必要がある」

 そして、澪や姫子たちを見渡しながら付け加えた。

「あと、お前らもこれで懲りたろう。もう俺や唯には関わるな。分かったな」

 そう云い残して、男は店から出て行った。

 唯も肩を震わせて、

「みんな、ごめん!」

と云い残して店を出て行った。