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消えなかった結果がコレだよ/ex

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 ジリリジリリと電話のベルが受話器を取る手を求めてやまない。
 電話向こうの相手と、急かすように鳴り響くベルには気の毒だが、今受話器を取りに向かっている人物は基本的にゆっくり歩くタイプで、彼なりに急いでもさして速さに変わりは無かった。
 ようやく彼の手が受話器へとたどり着く。電話を取る所作一つにすら気品を感じられるが、もしこの場に彼をよく知る者がいたら、その優雅さが精彩を欠いていた事に気付いただろう。

「はい?」
『ローデリヒか、俺だ』

 そんな彼、ローデリヒは努めて平静に電話に出たが、電話の相手が誰だかわかるとその仮面をあっさり捨てた。

「ルートヴィッヒ…! 貴方からという事は…あの御馬鹿は、ギルベルトはどうなりました!?」

 眉根を寄せ、より注意深く、電話越しの声が持つ答えを聞き漏らすまいとして耳を傾ける。
 吉か凶。そのいずれかの答えを。

『ああ、その事で……』

 どこか疲れを滲ませる声色からは、悲喜のどちらも見えてこない。
 間が一拍空く。その先の言葉を促す為に何か喋ろうかともよぎったが、急く心を抑え沈黙を保つ。

『明日そちらへ行くから待っていろッ!!』

 と、突如がなりたてる声が姿を現す。
 最初の二発音で咄嗟に受話器を離したからよいものの、そのままだったら間違いなく大音量を耳に叩きつけられていただろう。
 呆然と受話器を眺め怒声を聞いていると、乱暴な、いっそ清々しいと思える程の盛大な音が鳴る。

「ルートヴィッヒ、お待ちなさいルートヴィッ…!」

 慌てて声をかけるが既に電話は切れていて、ただツーツーと無情な単音ばかりを繰り返していた。
 はぁとため息をつく。
 伝えるべき情報を何一つ伝えず電話を切るなど、全く持って彼らしくない。
 ともすれば痛み出しそうな頭を抱えて、ローデリヒはひとりごちた。

「名前を出した途端あの剣幕とは……ああもう、全部貴方のせいですよギルベルト!」

 理不尽な応対に、ローデリヒも事の原因である人物へ責任を愚痴る。
 手の中の物を些か乱雑に扱いたくなったが、かつての上司に叩き込まれた節約根性がその衝動を止めさせた。
 電話のベルが一度上品に鳴り、受話器が元の位置に収まる。ローデリヒは再び大きく息を吐いた。
 あの様子では、すぐにかけ直しても無駄だろう。

(消えるなど、アレがそんな大人しいものですか……とはいえ)