消えなかった結果がコレだよ/ex
人と異なる生を授かった者達がいる。国の名を持ち、国と共に歩む、国の化身が。
その出自は様々だった。最初から国であった者もいれば、一地方や人の集団の象徴として生まれ落ちた者もいる。
彼らはただの人より遥かに丈夫な体を持ち、遥かに永い時を生きる。国が在る限り。
その性質故、国に終焉が訪れれば、その者がいかに生に満ち満ちていても、共に消え行く運命にあった。
それがローデリヒらである。そんな彼らの中には、妙な者達もいた。
例えば海上要塞の申し子。或いは亡国の面影。
ローデリヒが八つ当たり気味に名を呼んだ男は後者。自身の国を失くしても存在し続ける稀有な者であった。
彼の国は侵略によって潰えたのでなく、とある国に全てを譲り渡すようにして地図上から去っていった。
それがギルベルトとルートヴィッヒの兄弟である。
兄はその後、弟の国の半身としての道を選びとった。それも紆余曲折を経て完全にその役目を終えた筈である。ほんの十数時間前に。
つまり、ギルベルトは今一度消失か存続の時を迎えていて、ルートヴィッヒはその行方を知っている筈なのだ。
なのに、待望の知らせは先ほどの通りである。
ギルベルトはかつて、欧州中を引っ掻き回した事もある困り者だ。
ローデリヒ自身も彼に因縁つけられたり、大事な所取られたり、子供じみた嫌がらせされたりと、冷静に考えなくても振り回されてばかりなのだが、彼の消失を望んでいる訳ではなかった。
それはギルベルトを知る者なら誰しもそうだろう。
ルートヴィッヒの上司なら詳細を把握しているだろうが、『国』が他国の政治的トップと個人的なやりとりをするのは外交問題に発展する可能性を孕んでいて、おいそれと連絡を取る事すら憚られた。
結局は当事者から真実を告げてもらうしかないのだ。
「……エリザベータも、呼んでおきましょうか」
誰にともなく呟いて、ローデリヒは受話器を再び持ち上げる。ダイヤルに指をかけ回すとちりりりんと可愛らしい音が響いた。
呼び出しコールが一周するまでもなく、相手が出る。
ローデリヒと同じように、ギルベルトの安否を心配している者が。
作品名:消えなかった結果がコレだよ/ex 作家名:on