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消えなかった結果がコレだよ/ex

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 ギルベルトを取り逃がしたルートヴィッヒは、全速で駆け屋敷の門扉から母屋の玄関までの最短記録を更新した。
 上がった息を整えながらチャイムを三度鳴らしたが、家主はまだ出てこない。
 既に兄の悪ふざけに遭ってしまったのだろうか。それとも自宅でまで迷っているのだろうか。
 出迎えも無い内に勝手に入り込もうものなら家主にこっぴどく説教されるだろう。かといって兄の戯れをそのまま見過ごしてしまっても叱られる。
 どうあがいてもバッドエンドにルートヴィッヒのこめかみの辺りがひくつく。
 もう一度チャイムを鳴らしてそれでも出てこなかったら突入とプランを組み立て、玄関脇のボタンに手を伸ばす。
 四度目を押したと同時に玄関が勢いよく開かれた。

「チャイムはそう何度も鳴らすものではありません!」

 息せき切って現れた家主ことローデリヒは、いつも通りにポコポコと湯気を出しそうな勢いでルートヴィッヒに注意してきた。

「ローデリヒ! 兄さんは来ていないか!?」
「……は?」
「その様子だとまだか…!」

 ルートヴィッヒの問いかけに、ローデリヒは瞬きしか反応を返さない。
 どうやらまだ兄の悪戯の被害にはあってないようだ。ひとまずは胸を撫で下ろす。
 ならば次は、ギルベルトが何かをしでかす前に捕まえなければ。

「兄さんはどこから這入ってくるつもりだ…窓、いや裏口か!!」
「あ、ちょっとお待ちなさい! ちゃんと説明なさい、ルートヴィッヒ!」

 昨今の屋敷の使用状況、兄の性格と、把握してそうな情報等を推察して、ルートヴィッヒはローデリヒを押しやり母屋の中を突き進む。
 ローデリヒの制止する声は聞こえているが、今はそれよりも兄を捕まえる方が先決だ。
 エントランスをすぐに曲がる。そのまままっすぐ伸びている廊下の突き当たりに窓があって、そこからなら裏口がよく見えたはずだ。
 大股で闊歩し状況を確認すべく窓から様子を伺ったルートヴィッヒは、丁度ギルベルトにフライパンがクリーンヒットする瞬間を目の当たりした。

「!? 兄さ」
「お待ちなさいと言っているでしょう、ルートヴィッヒ」

 もんどりうってひっくり返った兄の惨状に、ルートヴィッヒの目的が捕獲から保護に切り替わった。
 慌てふためいて裏口に走ろうとした所を、後ろから追いついてきたローデリヒに止められ、ルートヴィッヒは声を荒げる。

「いや、それ所じゃないだろう! 兄さんが…!!」

 説明するのももどかしい。実際に見た方が深刻さを理解してもらえるだろう。ルートヴィッヒは体を少しどけローデリヒに窓の外を見るよう促す。
 なのにローデリヒは相も変らぬマイペースさで、「おや…」とか悠長に呟きだす始末。緊急事態とわかっているのか。
 埒が明かぬと踏んでルートヴィッヒは駆け出そうとしたが、未だローデリヒに片手を押さえられたままで進むに進めない。

「離せ、ローデリヒ! 兄さんを…!?」
「三度も言いませんよ、ルートヴィッヒ。ちゃんと、一から、説明なさい」

 ローデリヒにがっちりと掴まれた手首は完全に封じられていて、勢いに任せても振りほどけない。
 普段のルートヴィッヒなら慌てずに対処出来ていただろうが、冷静さを欠いた今ではそれも能わず。
 この時に初めて、ルートヴィッヒは、体術でローデリヒに黒星を付した。



「……つまり、貴方が思慮の欠けた行動をとった為に、私達はしなくてもいい心配をし続けていた…と」

 有無を言わせぬローデリヒの笑顔に気圧され、ルートヴィッヒはピアノ室まで連行されていた。
 曰く。落ち着いて話が出来るから、との事。
 それは普段からピアノを嗜んでいるローデリヒだけであって、何かあるたびに曲を聴かされているルートヴィッヒには当て嵌まらないのだが言っても無駄だろう。
 ピアノチェアにローデリヒ。観客用の椅子にルートヴィッヒ。いつの間にやら定位置になってしまった場所でルートヴィッヒは収まりの悪い時間を過ごしていた。

「すまなかった…。だが一応、午前中に連絡を入れたぞ。何故出なかった?」
「貴方がヤケ食いすると思って台所に篭ってましたから」

 しれっとローデリヒが答える。その意見に反論出来ない切り方をしたのは事実だ、仕方ない。
 さらに台所とあっては運が悪かったとしか言いようが無い。
 音楽を嗜んでいるだけあってローデリヒの耳はいい。その彼が電話の音を拾えなかったのなら、恐らくオーブン爆発時にかけてしまったのだろう。
 つくづく困った特技だというツッコミは心中にとどめて、ルートヴィッヒは頭を下げる。

「……とにかく、反省している。エリザベータにもきちんと謝る。だが今は先に兄さんを…」

 と、そこで小さくコツコツと何かが音を立てた。
 それはカーテンの向こう、窓の外からのもので、ルートヴィッヒが正体を確かめようとするとローデリヒにやんわりと制止された。

「少し兄離れをなさい、ルートヴィッヒ。昨日の今日で落ち着かないのも分かりますが、貴方は過保護気味ですよ」

 あれぐらいなら死にませんよ、熱湯をかけられた訳でもないですし。
 何気にさらりとひどい事言いつつローデリヒが窓を開放すると、兄がいつの間にか飼い始めた小鳥がいた。
 さすがにあの騒ぎではギルベルトの頭上に居続けるのは無理だったのだろう。室内には入り込まず窓の桟にとまって、ピ、と可愛らしく鳴く。
 …そういえば昨日兄が変な事を言っていたが、取り乱していた自分を落ち着かせるためのジョークだったのだろう…きっと。

「ルートヴィッヒ」

 再びローデリヒがピアノチェアに座る。鍵盤蓋をゆっくり丁寧に開き、戯れに指を走らせる。
 澄んだ音色が止まり、ローデリヒが穏やかに微笑む。彼独特のお説教が、今始まりの宣誓を告げる。

「この際です。私がどれだけ怒ってるか今からピアノで表現します。しかと聴いていきなさい」