青い春
次の日、学校から登校してみると黒板の周りにクラスの子供達が集まっていた。
帝人は小首を傾げながら、その輪に加わる。
「ねぇどうしたの?みんな」
「あ、竜ヶ峰くん・・・」
クラスの女子は帝人を見て何故か同情を含んでいる視線を送ってくる。帝人はどうしてそのような目で自分が見られているのか分からない。
けれど1人のいつもクラスをちゃかしている男子の声が響いたとき、顔から火が出る勢いで恥ずかしかった。
「あ!来たぜ!!折原帝人ちゃ~ん!教科書を一緒に見る仲良しふーふ!けっこんしちゃえよ!けーっこんけーっこん!」
その男子をかわきりに、いつもその男子の周りにいる取り巻き達も一緒にはやし立て始める。
「黒板にも書いてやったぜぇ!ほーら帝人ちゃんと折原は相合い傘してけーっこん!けーっこん!」
帝人は恥ずかしくて恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら俯いた。クラスの数人の女子はそんな男子達を止めようとしているが、止まる気配はない。
恥ずかしさのあまり泣き出しそうになる自分を帝人は叱咤して、瞳をぎゅっと閉じた。
次の瞬間、ドカッという鈍い音がしたと思うと女子の悲鳴が上がる。帝人は驚いて顔を上げ辺りを見渡した。
「何?そんなに俺が帝人君から教科書見せてもらったのが可笑しいの?低レベルだね。結婚って意味分かってる?
分からない言葉を連呼するのがどれほど間抜けで浅はかで見苦しいのか、その陳腐な頭で考えても分からないのかな」
臨也はクラスの入り口で子供らしからぬ笑みを浮かべていた。クラスの誰もが口を閉ざす。
先程の鈍い音は臨也がチャイしてた男子にランドセルを当てた音だった。
ランドセルと当てられた男子は一瞬だけ呆けていたが、すぐに目に涙を浮かべて教室から飛び出してしまう。
一緒にちゃかしていた男子もおろおろとしていたが、臨也に一睨みされるとひぃっと悲鳴を出して先程の男子を追って教室から出て行ってしまった。
帝人は臨也のランドセルと持って彼へと近づく。
「ありがとう・・・」
「いいよ、別に」
臨也は帝人からランドセルをもらうと、ニタリと笑ってクラス中に響くように声を上げた。
「良いからとっとと席に座ったら?あいつらと同じようにちゃかし出したら俺、容赦しないよ?」
その途端、クラス中の生徒がざわめきと共にいつもと同じ生活に戻る。女子は固まってしゃべり出し、男子はクラスや廊下を走り出した。
「帝人君もこんな低俗な奴ら気にしなくて良いんだからね。気にしている方が疲れちゃうよ?」
「あ、今僕の名前・・・」
「え?・・あ!い、いやだった?」
臨也は苦笑しながら小首を傾げる。帝人は勢いよく首を横に振った。臨也に名前で呼んでもらえたことが嬉しくて呆けてしまっただけ。
よかった、とはにかみながら笑う臨也に帝人はまた嬉しくなった。
「ぼ、僕も・・・臨也君って呼んで良い?」
「もちろんだよ帝人君!」
臨也はふわりと笑うと帝人の手を引いて席へと着いた。