猫耳東風(仮)
とてとてと小さな体で塀の上を歩くリボーンの革靴がぴた、と歩みを止めた。
連れの小さな虫がボルサリーノの鍔の上に落ち着く。
数歩先には艶やかな黒い毛並みの子猫が惰眠を貪っていた。
リボーンの足音が止まったことで片目を薄く開けてにゃーんと牙を剥き出して欠伸をする。なんてことない日だまりで午睡をする子猫の姿にリボーンはにたりと人の悪い笑い方をする。
「よう、久しぶりじゃねぇか」
子猫は前肢を揃えてそれに顔をのせて顔を傾ける。
「俺の言葉、わかるくせに、雲雀」
「あぁそうなんだ。僕の言葉がわかるんだ」
雲雀、とリボーンが呼ぶ猫は雲雀さながらに人間ぽく片頬をあげる仕草を見せた。ゆっくりとリボーンへと歩みより、その頬に体をすりつける。緩急のついたその動きはまるで本物の猫みたいだが、リボーンの黒いまなこはその奥まで見えていた。
「おまえが行方不明になるわけはないな」
小さなぷにぷにした指先で喉をなでられて雲雀は体をうーんと伸ばしてくたりと横たわる。言葉だけではなく、猫の体の機能までわかるのかリボーンの愛撫に口がだらしなく開いて牙を見せる。
「雲雀」
笑いを隠さずに呼ばれ雲雀は宙にのばしきっていた前肢をぱたりと下ろし、首をすっくと伸ばした。
「知らないよ。動物にはひにちの概念は無いんだ。気づいたらこうなっていた。でも、意外と猫って強いんだね。この姿でも支障なく並盛は僕のものだ」
「その体が元のサイズだったらもっとよかっただろうよ」
リボーンはうまくバランスをとって塀に座る。雲雀のしっぽがその背中をぱしんぱしんと叩く。
「あぁそれは考えなかったけど、確かにそうだね」
「そのままのサイズでもいいのか?元に戻りてーのか?」
「………」
「考えもしなかったか」
頭を撫でるために伸ばされた手をぱしんと尻尾で払う。
「僕は……」
「リボーン!危ないよ」
雲雀の声を遮ったのは綱吉だった。高い塀の上にちょこんと座って猫と話すリボーンの姿に驚いて駆け寄ってきた。雲雀が小さい頭を巡らせると空は茜色で、そうか帰宅時間かと思い巡った。恒例の巡回に行こうと四つ足を立たせると途端に体中が寒気に襲われておののいた。猫になって初めての経験で自分に何が起こったのか把握できずに本能的に振り向くと尻尾の根本をリボーンが笑って握りしめていた。そんなところが急所だったのかと雲雀は猫目をまん丸くして驚き、このかわいい赤ん坊こそが自分の宿敵だったと今更になって思い出した。
「ちょっと」
綱吉には唸り声として届いた。機嫌が悪いと一聴してわかる獣の声に早や腰が引けている。なのに、リボーンは余裕でさらに小さな手に力を込めた。なぜかそこから段々と脱力して全身の力が抜けてとうとう雲雀は敗北の証を見せる。リボーンのもみじのような手のひらが剥き出しになった柔らかい腹を撫でるのが心地よくすらある。それでも百獣の王のような無念混じりの恐ろしい唸り声を響かせる。
「ったく、おまえは変わらねぇな。ツナ、連れて帰るぞ。持て。丁寧にな」
「病気とかじゃないの?大丈夫?」
徐々に雲雀の視界は暗くなっていって、ブラックアウトする寸前にぺしと乾いた音がして、震える、でも暖かいものに包まれた。
連れの小さな虫がボルサリーノの鍔の上に落ち着く。
数歩先には艶やかな黒い毛並みの子猫が惰眠を貪っていた。
リボーンの足音が止まったことで片目を薄く開けてにゃーんと牙を剥き出して欠伸をする。なんてことない日だまりで午睡をする子猫の姿にリボーンはにたりと人の悪い笑い方をする。
「よう、久しぶりじゃねぇか」
子猫は前肢を揃えてそれに顔をのせて顔を傾ける。
「俺の言葉、わかるくせに、雲雀」
「あぁそうなんだ。僕の言葉がわかるんだ」
雲雀、とリボーンが呼ぶ猫は雲雀さながらに人間ぽく片頬をあげる仕草を見せた。ゆっくりとリボーンへと歩みより、その頬に体をすりつける。緩急のついたその動きはまるで本物の猫みたいだが、リボーンの黒いまなこはその奥まで見えていた。
「おまえが行方不明になるわけはないな」
小さなぷにぷにした指先で喉をなでられて雲雀は体をうーんと伸ばしてくたりと横たわる。言葉だけではなく、猫の体の機能までわかるのかリボーンの愛撫に口がだらしなく開いて牙を見せる。
「雲雀」
笑いを隠さずに呼ばれ雲雀は宙にのばしきっていた前肢をぱたりと下ろし、首をすっくと伸ばした。
「知らないよ。動物にはひにちの概念は無いんだ。気づいたらこうなっていた。でも、意外と猫って強いんだね。この姿でも支障なく並盛は僕のものだ」
「その体が元のサイズだったらもっとよかっただろうよ」
リボーンはうまくバランスをとって塀に座る。雲雀のしっぽがその背中をぱしんぱしんと叩く。
「あぁそれは考えなかったけど、確かにそうだね」
「そのままのサイズでもいいのか?元に戻りてーのか?」
「………」
「考えもしなかったか」
頭を撫でるために伸ばされた手をぱしんと尻尾で払う。
「僕は……」
「リボーン!危ないよ」
雲雀の声を遮ったのは綱吉だった。高い塀の上にちょこんと座って猫と話すリボーンの姿に驚いて駆け寄ってきた。雲雀が小さい頭を巡らせると空は茜色で、そうか帰宅時間かと思い巡った。恒例の巡回に行こうと四つ足を立たせると途端に体中が寒気に襲われておののいた。猫になって初めての経験で自分に何が起こったのか把握できずに本能的に振り向くと尻尾の根本をリボーンが笑って握りしめていた。そんなところが急所だったのかと雲雀は猫目をまん丸くして驚き、このかわいい赤ん坊こそが自分の宿敵だったと今更になって思い出した。
「ちょっと」
綱吉には唸り声として届いた。機嫌が悪いと一聴してわかる獣の声に早や腰が引けている。なのに、リボーンは余裕でさらに小さな手に力を込めた。なぜかそこから段々と脱力して全身の力が抜けてとうとう雲雀は敗北の証を見せる。リボーンのもみじのような手のひらが剥き出しになった柔らかい腹を撫でるのが心地よくすらある。それでも百獣の王のような無念混じりの恐ろしい唸り声を響かせる。
「ったく、おまえは変わらねぇな。ツナ、連れて帰るぞ。持て。丁寧にな」
「病気とかじゃないの?大丈夫?」
徐々に雲雀の視界は暗くなっていって、ブラックアウトする寸前にぺしと乾いた音がして、震える、でも暖かいものに包まれた。