猫耳東風(仮)
リボーンがつれてかえってきた子猫はなかなか強敵で、綱吉の手をメロンマスクみたいに傷だらけにした。
容赦のない咬み傷となかなか丈夫な爪に綱吉も呆れたものの、濡れそぼってふーふーと全身の毛を逆立てて威嚇する姿はかわいそうと思わせるほどみすぼらしかった。
「拭くだけだから。自分で拭けるの?」
広げたタオルにも敵意剥き出しで睨む子猫はふと、くしゅんと人間くさいくしゃみをした。
ついと振り返った猫の目線を追えば、風呂上がりのリボーンがぴょんとクッション付きの所定の椅子に飛び上がったところだった。子猫はリボーンにたたと近寄って濡れた体をなすりつける。
「こら甘えんな。ツナがタオルを持っているからあっちにいけ」
ニャアニャアと抗議の声を上げてなおもリボーンの服に水分をなすりつける。
「ダメツナ、猫の風呂もまともに入れられないのか」
ニャアニャアと再度抗議の声を上げる子猫にふふんと笑って「意外と初心なんだな」と笑うと、子猫はピタと動きをやめて光一閃、綱吉からタオルを噛みとってタオルの海に体を巻き込んだ。しばらくじたんばたんとタオルの海の中で体を反転させていたが、にゅっと顔を出した。
「何食うんだ?」
綱吉は子猫がーー雲雀が入った湯を洗面器ごと風呂場に持っていく。
「ツナ、おかかのおにぎりを作れ」
「は?おかかってどうやって作るのさ?かあさんに作ってもらえよ」
「甘えんな」
言葉と同時にズガンと耳そばを弾丸が通り抜けて壁にのめり込めばさすがの綱吉も文句を言いながら水屋の棚やシンクの下など片っ端から戸を開いていく。
「リボーン、おかかって……自分で調べればいいんだろ!」
自分に向けられた光る銃口に半べそをかきながら二階の自室に駆け上がる。
「おかかもわからないなんて」
「甘えすぎだな。おまえは知っているのか?」
「鰹節に醤油を混ぜただけなのにね」
猫のくせに肩をすくめる仕草をみせて、リボーンのエスプレッソカップの横に寝そべる。
ふわぁと欠伸をして目を閉じる。
くんと香ばしいにおいがして、反射的に髭がぴくぴくと動く。自分の動きに目がさめた雲雀は、ランボとイーピンとビアンキ、フウ太に囲まれておかか入りのおにぎりを作る綱吉の姿を認めた。群れにざっと全身の毛が逆立つが、またもやひやっとした寒気に全身を襲われる。案の定、リボーンが人の悪い顔をして尾の根を掴んでいる。
「できあがったらいなくなるから我慢しろ」
ふん、と異を唱える雲雀の前に小さな、おかかおにぎりが並んだ。
「猫のくせにおかかおにぎりが好きだなんて」
その両手からぷしゅうと紫の煙をたたせるビアンキと「熱い、熱い」と楽しそうに炊きあがったご飯を握り続けるイーピンに見守られながら、雲雀は目の前に並んだにぎりめしに文字通り食らいついた。猫舌でも食べられるように冷えたにぎりめしは空腹だった雲雀はすぐに食べ尽くした。
綱吉には、にゃあにゃあとかわいい鳴き声で続きを強請っているように聞こえるそれは、リボーンには「早く作りなよ。まったく不器用なんだから。まぁ猫舌に配慮したのは評価するけどね」といういつもの雲雀恭哉なりの讃美でもあった。
(続)