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つわものどもが…■03

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世の中には、知るべき事と知らなくていい事がある…





03:得体の知れない人





俺がこの大学を選んだ理由のひとつに、有名な教授が教鞭をとっているという事がある。
時折テレビにも出ている人で、ちょっと不思議な雰囲気を持っているが、その人の醸す威厳というか迫力というか、そんなようなものに興味がわいた。
ただ惜しむらくは、その教授の専門分野が俺が目指すところとは少し違う、政治関係だって事だ。法律関係のexpertなら良かったんだが。
ともあれ、カリキュラムの中にその人の名前を見付け、当然俺は履修手続きをした。
一年次で履修する授業の大半はパンキョウだが、基本科目も幾つかある。そのうちのひとつが、この教授のものだった。いずれは講義を受けたいと思っていたが一年次から受講できるとは、luckyだ。
基本科目の中でも人気の授業なのだろうか、指定された講義室はかなり広い。ドラマなんかで見るような、席が段々になったタイプの部屋だ。(こう言うの、なんてんだ?)
担当教授のスケジュールの関係で二週ほど休講が続き、他のクラスから遅れて今日やっと初めての講義。
俺は空いた席に適当に陣取った。同じコースのヤツ等もいるにはいるが、特別仲が良いという訳でもない。俺の席を取っておいてくれる、または誰かの席を取っておいてやるような間柄には、まだなっていない。
腰掛けたその隣の席にショルダーを置いてノートとペンケースを机に出したところで、反対隣の席に誰かが座った。
まだたいして埋まっていない教室で、なにも俺の隣に来る事もないだろうに…と視線を流せば、
「Oh…I can’t believe it、ナンでアンタがこんな初歩的な授業を受けンだよ、元就さん」
隣には、鶯茶のシャツに梅染色のネクタイを締めた元就さんが、尊大に腕組をして座っていた。元親と違って何時もきちんとした格好ではあるが、ネクタイまでしているのは珍しい。(因みに元親は知る限り何時もよれよれのパーカーで、足元も草履だとか良くてもスニーカーだ)
「そなたの姿が見えたのでな」
そんな理由で一回生の授業に混ざってンじゃねーよ。院生はよほど暇なのか?
「政宗は政(まつりごと)に興味があるのか?」
「なくはねぇが、目指してンのはソッチじゃねぇな」
この人は俺が何を言ったところで、したいようにしかしないだろう。なので特に抗議をするでもなく問われた事に答えるだけにとどめた。鞄から薄手の膝掛けを取り出す際、内ポケットにのど飴が入っていたのを見付け、元就さんに差し出してみる。元就さんはちらりと見遣って「結構」と俺に掌を向けるような仕種をした。無理強いをするつもりはないので自分の食べる分だけ取って、再び鞄に戻す。
「左様か、それは残念。しかし気持ちが変わったなら遠慮なく我の研究室に入るが良いぞ」
カロン、と飴が歯に当たって間抜けな音を出した。
「そなたなら大歓迎だ」
「いやいや、アンタの研究室じゃねぇだろ」
「何れそうなる」
えっらい自信だな。
でも確かにこの人ならやりそうな気がするから洒落にならない。
そんな他愛ない話をしているうちに、講義室の席が埋まりだした。それでもやっぱり元就さんは座ったままで、このまま講義を受けるつもりのようだ。
「時間、いいのか?」
「構わん、学会の催しに随行する予定だが早く来過ぎたのでな」
つまりは暇つぶしか。
やがてチャイムが鳴り、教室前方の扉から教授が入室してきた。サポート役の講師か事務局の職員か、えっらいproportionのいい美人が付き従っている。
教授は壇上に進むと、やおら講義室を見渡した。
と、その視線が俺のところで止まった。いや正確には俺の隣の元就さんだ。
「これはめずらしいちょうこうせいがおりますね」
ゆったりとした独特の口調で教授が言う。
「たんいはさしあげられませんよ、もうり」
にこり、と穏やかな笑みを浮かべる教授にも元就さんは相変わらずで。
「そのようなものを欲しての事ではない」
「でしょうね。…そなたのとなりにいるのは、ともですか?」
ただでさえ居心地の良くなかったところに、教授が明らかに視線を俺に向けて言った。悪目立ちしている…
「これは正真正銘の受講生だ」
「ほう…そなた、なはなんというのです?」
教室中の視線が俺に集まっている気がするが、それよりも教壇の傍で待機しているproportion抜群の彼女の視線が刺さるように鋭いのが気になる。痛ぇよ…
「法律科の、伊達です」
起立した方がよかっただろうか、と思ったが既に後の祭りだ。今さら立ち上がるのもカッコ悪ぃ。さっきまで口の中にあったのど飴の効力虚しく、上擦った声で答え、俺は取り敢えず背筋を伸ばして着席したままゆるく辞儀をした。その対応に教授が腹を立てた様子はなく、やはり穏やかな笑みを浮かべて首肯する。
「これからいちねん、よろしくおねがいします、だてじょし。ほかのものたちも、よろしくたのみます」
女史、なんて初めて呼ばれた。生徒に対するにしては大仰な敬称で言われ、俺は柄にもなく照れてしまった。それから教授は簡単な自己紹介と授業の進め方を説明すると、助手だか何だかの置いていったテキストを手にした。(矢鱈とproportionのいい女性は気付かないうちに既に退室していた)
なんていうか、カリスマって言うの?教授は不思議な雰囲気を持っていると思う。性別に関係なく惹かれるような……えと、教授は男性…だよ、なぁ?(短髪で背広着用だからって、何だか断言出来なくなってきた…)
教授の講義は独特で、板書をしない。口頭で説明した事が全てだ。書き留める必要のない部分はきちんと前置きしてくれるし、重要な所は重ねて言ってくれる。丁寧は丁寧だがなかなかに集中力の必要な授業だと、初めての受講で悟った。
どれくらい経っただろうか、時折隣からアドバイスを受けつつノートに書き記していると、
「そろそろか、」
不意に小さな声で元就さんが溢した。何がだろう、と俺はシャーペンを走らせる手を止めてノートから顔をあげた。
元就さんがゆるりと左腕の袖口を右手でずらすようにして、腕時計を見ている。
「う…わ、それ、」
思わずひとつしかない目を見張ってしまった。吃驚するものを着けている。
「なんだ?」
「それ…パテック・フィリップ……元就さん何者?」
俺の認識が間違ってなければ、それは超がつく程の高級腕時計で親から子へ受け継がれるとか、そんな類のものじゃなかったか?
「そなたこそ、一瞥しただけでコレの価値が分かるなど、何者だ政宗?」
にやり、と悪戯っぽく(元親に言わせると何か企んでいるように)笑んで、元就さんは何の躊躇いもなく立ち上がった。
「も、元就さん、まだ講義が…っ」
「どうしました、もうり?」
慌てて俺が制止するのと同時、教授がテキストを持つ手を少し落として此方を見遣った。
またしても教室中の視線がこちらに注がれる。だが元就さんは涼しい顔で、
「時間のようだ、これにて失礼する」
さらりと述べると「ではな、」と俺に言い置いて堂々と教室を出て行った。全く物怖じしない人だ。
作品名:つわものどもが…■03 作家名:久我直樹