こらぼでほすと 襲撃3
鷹たちの説明に、シンとレイも思い出して苦笑した。そうなのだ。普段、のほほんとしているから忘れてしまうが、キラは天然電波な大明神様だ。ひとりで、ザフトの一個艦隊とMSを相手にして、すいすいダルマにしちゃえる実力がある。
「でも、心配はさせろ。」
「キラさん、シンみたいな作戦もあるんですから。」
でも、やっぱり心配なものは心配だ。じっと、キラを睨んだら、「うん、お願いするね? 」 と、キラも頷いた。この人が旗頭になっているから、『吉祥富貴』に、どこの国も組織も手が出せない。その人を不測の事態に陥らせるわけにはいかない。不敗神話があればこその、今の状況だ。
「あのね、刹那はね。ママって人質があるから大丈夫。・・・・・くくくくく・・・別荘にママがいるって教えたら、僕が別荘を背中にしている限りは砲撃できないし、短剣も投げられないんだ。それだけで行動は、かなり制限できる。接近戦に入る前に、僕がオールレンジ砲撃すれば、それでおしまい。」
楽しそうに、大明神様は、えげつないことを言って微笑んでいる。それ、完全撃破しちゃうでしょ? と、レイは頬を引き攣らせた。オールレンジ砲撃して、さらに、ドラグーンを放つなんてことをやられたら、刹那だって避けきれない。ふたりとも当たらないでね? なんて、大明神様は、さらに怖いことをおっしゃるわけで、シンも頬を引き攣らせた。
「おまえら、わかっただろ? なんで、キラが『白い悪魔』なのか。」
苦笑しつつ鷹が、そう言うと、ふたりも、こくこくと何度か無言で頷いた。アスランも苦笑している。その様子にハイネは大笑いだ。普段、刹那を猫可愛がりしているのに、こんな時は容赦しない。それだけの精神力がキラにはある。シンとの戦闘だって、何十機ものMSやMAとの戦闘の後で、AAを逃すために時間を引き延ばしていたのだ。何時間もの戦闘を続けていれば疲労も溜まる。その隙をつかれた、というのが正解だろう。刹那は、そういう実戦の中で培われるものが足りない。
王留美のほうも、接触できないで焦れてきた。ロックオン・ストラトスに接触して、情報の漏洩を依頼するだけという非常に簡単なはずのことが、できないなんて有り得ないという気分だ。こうなったら、いっそ、偶然を装って寺へ自分が出向こうか、と、考えていた。それなら邪魔はしづらいはずだ。エージェントたちは、ロックオンと面識がないから、妨害されてしまうと近づけない。行動パターンは単純だから、と、エージェントに押し付けたというのに、情けない事態だ。こんな簡単な依頼を十日しても遂行できていないなんて、王家の恥だ。
「紅龍、エージェントを引き上げさせなさい。私が行きます。」
こうすれば簡単だった。
「ですが、留美様。スケジュールが・・・」
現在、王留美はユニオンに滞在している。こちらで政財界の人間との会合が入っている。王家の当主としての仕事のほうが、CBのエージェントの仕事より優先するべきものである。さすがに直前のものはキャンセルできない。
「特区へ入るのは、いつの予定? 」
「三日後です。」
「それから、アレルヤ・ハプティズムの捜索は、どうなっています? 」
「そちらも、まだ判明しておりません。」
アレルヤの捜索も指示されているが、これも厄介だ。どこの陣営に引き取られているかすら判明しない。さすがに、CBの人間についての情報というのは入ってこない。どこかの軍部が、極秘にやっているとなると、そこを探すだけでも一苦労だからだ。
「忌々しい。・・・わかりました、特区へ入り次第、接触します。それまで、追跡だけさせておきなさい。」
特区で経済会議がある。地球連合という組織を新たに創設することになって通貨や株式などの統一の問題が出てきた。それについての各国の外相、蔵相、各国の財界の人間が話し合うことになっている。実務者レベルの会議も同時に行われるので、特区へ出向かなければならない。その合間に、簡単なほうの依頼から片付けておくことにした。
しかし、だ。王留美が特区入りした段階で、ロックオン・ストラトスの身柄は、宇宙規模で有名な歌姫の本宅に移されてしまい、一筋縄ではいかないことになって、王留美のイライラは、さらに募った。面会させろ、と、連絡しても、「こちらには、そんな人間はいない。」 と、刎ねつけられてしまったのだ。さすがに世界規模の財閥の当主といえ、ラクス・クラインの本宅へ押しかけるような真似はできない。表向きには清廉潔白な平和の使者と言われている歌姫だが、裏では、「やられたことは三万倍返し。障らぬ神に祟りなし」 と、言われている怖い人物だ。同じCBのエージェントとして面識はあるが、親しいわけではない。
「何がなんでも、ラクス・クラインを掴まえて。」
直接、当人に直談判するしかない、と、連絡したが、相手のほうが一枚も二枚も上手だった。
「体調を崩されて、ただいま意識不明なんですの。お会いになりたければ、本宅へ連絡いたしますが、お話できる状態にはありません。・・・・王家は、それほど無能ですか? 」
「失礼ですわ、ラクス・クライン。」
「ですが、事実ではありませんか? 私どもが把握できるというのに、あなたが、それをできないとは、その証明になっておりますでしょ? 」
歌姫は優雅に微笑んでいるのだが、口から出て来る言葉は、容赦のないものだ。何を、という主語はぼかしているが、アレルヤロストの探索を注しているのは明白だった。だから、さすかの王留美でも顔色を変えてしまう。
「同じエージェントとして情報の開示を要求しているだけです。」
「ほほほほ・・・・私くしは、あなたとは違う意味のエージェントです。それに、あなたと馴れ合う必要を感じません。・・・・ひとつ申し上げておきますが、特区の会議には、オーヴのカガリ・ユラ・アスハ様も出席されます。その方は、私くしの大切な方で、本宅へ滞在されることになっております。もし、不手際なことが発覚すれば、容赦なく公表されますので、ご注意くださいね。」
つまり、勝手に不法侵入しようものなら、その事実を公表する、と、脅してきたのだ。一国の元首が滞在するとなれば、警備も強化される。それでなくても、歌姫の本宅は、警戒が厳重な場所だ。王家の人間が、不法侵入したという事実は公表されたら、スキャンダルになりかねない。
「それでは、お見舞いに。」
「ええ、結構です。手配はしておきましょう。あの方は、私の大切な子猫の保護者です。それだけは忘れないでくださいね? 王留美。」
意識不明なんてあるわけがない、接触できれば、メモリーチップを渡すぐらいのことは、できるだろう、と、王留美は考えていたが甘かった。本当に、意識不明で話をするどころではなかったからだ。
作品名:こらぼでほすと 襲撃3 作家名:篠義