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バベルタワー

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 砂取りゲームは結局、栄口が棒を倒して終わらせた。試合に勝ったけど勝負に負けた気分の水谷は、栄口から何らかの言葉や出方があるはずだと予想していた。しかし栄口は次の日からも水谷への態度が変わることはなかった。
 そうなってしまうと手も足も出ないのが水谷のどうしようもないところだった。なんであんなことを、キスをしたのだろうか、そもそもあれはキスだったんだろうか、悩めば悩むほど一歩も踏み出せなくなってしまう。

 しかし、ゲームは終わり、また始まっているのだった。栄口はありったけの力で掻き集められるだけの砂を取り、そこへわずかに残った砂を水谷がどうするのか伺っているのだ。
 前々から不器用で、今やすっかり気弱になってしまった水谷は、棒を倒さずに砂を取ることも、棒をわざと覆すこともできない。
 せめて雨が降り、一緒の傘で帰ることができたならば、また栄口に向き合って砂取りゲームを続けられるのかもしれない。
 しかしあの日以来、梅雨の中晴れが梅雨を乗っ取ってしまったかのような晴天が続いていた。髪形はうまくまとまるし、朝もぱっちり目が覚める。いつもの6月とは思えない陽気はそれまでの水谷だったらとても喜ばしいことだった。しかし今は状況が違う。
 雨降らないかな、なんていういつもの水谷とは矛盾したぼやきに栄口が反応を返した。
「水谷雨の日嫌いって言ってなかった?」
 情けないことに栄口の一挙一動に過剰反応しているのは自分だけだった。しどろもどろになって何も言えなくなってしまった水谷へ、栄口は小さくため息をついた後こう言った。
「……そうだね、雨が降ればいいのかもね」


 水谷は雨の日が嫌いだ。遅刻寸前で朝練へ到着し阿部にどやされるのも雨の日は寝起きが悪いからだし、花井と巣山に坊主を勧められ無碍に断れないのも言うことを聞かない雨の日の毛先のせいだと思うからだ。
 今日も空はバカみたいに青く、徐々に上がる気温や、もくもくとした真っ白な雲は、夏が近づいていることを感じさせる。帽子をうちわ代わりにあおぎつつ麦茶までたどり着くと、そこでは栄口が麦茶を飲み干そうとしているところだった。動く喉と額を這う汗がなんだか艶かしく見える。
「使う?」
 ぼーっと見とれていたとき、いきなり話しかけられたものだから、水谷は口をパクパクさせるだけで何も言葉を返すことができなかった。そんな水谷へ、ほら、とコップを手渡したあと、栄口はきりりと帽子を被り直した。
「……やらしい顔すんなよなぁ」
 栄口が去り際に呟いたセリフのせいで、喉を通り過ぎていく麦茶はびっくりするほど何の味もしなかった。やらしいって誰だよ、俺か、俺どんな顔してたんだ、もうだめだ。力の抜けた手でコップを置き、へなへなとその場にしゃがみ込んでしばらくすると、グラウンドの奥の阿部からやたらでかい罵声が浴びせられた。
 
 そんな水谷が雨の日を待ちわびることもある。
作品名:バベルタワー 作家名:さはら