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みっふー♪
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かぐたんのよせなべ雑炊記

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センセイのてつがくかふぇへようこそ☆



とある寂れた裏通りの片隅にひっそりとその店はあった。元は賑やかな表通りの一等地で堂々営業していたのだが、いらぬ摩擦を避けて官憲の目を逃れるうちに次第周辺部へと拠点を移していき、半ば都落ちのような形で現所在地に落ち着いたのであった。思想信条の自由さえままならないこんな世の中じゃポイズソBYななこ夫。
♪カララン、客もまばらな昼下がり、古びた扉のベルが鳴った。
「……」
銀髪の無口な雇われ黒服マスターが顔を上げた。いつも頭がボサボサで半分しか目が開いてない眠そうな顔をしているが髪は天パだし顔は生まれつきなので他意はない。
「……ここアルか」
――どんな悩みも立ちどころにかいけつどろりするという伝説のかふぇ、思い詰めた様子で重たげに呟いた声の主はろーてぃーんと思しき少女であった。両耳にひと房ずつ垂らした赤毛を頭側部で伏せた椀形に結わえ、身に着けたチャイナ服及び足元のカンフーシューズに至るまで、生地・デザインともにシンプルかつ機能性重視の素朴なスタイルである。ゴテゴテ洒落乙したい年頃だろうに、何か拠所無い事情を抱えているのか、あるいは色ボケ以上に彼女の気を引く重大な関心事あってのことか。いずれにしてもサンプルとして興味深い案件であった。
「いらっしゃい」
カウンター席の定位置、マスターの傍らで静かに白湯を啜っていた人物が、店内を見渡す少女に声をかけた。世に知られた過激な言動とは一線を画する穏やかな物腰、白い着物に長髪姿の彼こそが、このてつがくかふぇの主宰者、『センセイ』と呼ばれているその人であった。
勧められるまま少女はカウンター前の座席についた。
「では、さっそく始めましょうか。どういったお悩みですか?」
先生が訊ねた。鍛えられた軍鶏のような引き締まった足をカウンターチェアに組んだ少女は、年の端に似つかわしくない大人びた笑いを浮かべた。
「トートツあるな。もーちょっとこーダラダラ世間話から入るとか、そしたらそーだん時間かさ上げしてそーだん料ようけ取れるアルのに」
「ウチはお金は頂いてませんよ、」
少女のひねた物言いにも、にっこり笑って先生が返した。
「マジあるかっ!」
身を乗り出して少女が席を立った、
「タダより怖いものはないっ!」
――びしっ! 敬礼!! 着席っ! 一連の流れで再び席についた少女は、背筋を伸ばしてそれきり微動だにしない。
「……んっ?」
さすがの先生も事情を掴み損ねて困惑気味であった。少女が不意に口を開いた。
「タダより怖いものはないとわかっていて、それでもなおタダメシはやめられない、ぜったいにやめるもんか、私のけつい表明ね!」
「なるほど、」
先生がぽんと手を打った。
「自分の中に確固たるポリシーがあるというのはいいことです、たとえそれで周りに偏屈扱いされようともね」
間髪入れず少女は返した、
「イヤ別にぽりしーとかじゃないです、単にゴハン大好きっ子なだけですティヘッ☆」
ちょこんと小首を傾げ、猫手にカワイ子ぶる少女の仕草を見るに別段悪気はないようだ。それかアホだ。
「……そーですか、」
先生が苦笑いした。
「おじょーちゃん、いーからまずはホットカルペスでも飲みな」
無口なマスターがコースターに乗せたカップをカウンターに滑らせた。先生がちらとマスターに目をやった。マスターは素知らぬふりで飾り皿を磨く作業に戻った。
「ヤーすぱしーヴぁ、」
流れてきたカップを受け取って少女はナゾのろしあ語を操った。先生がおっ、という顔をした。
「――ふぃー、」
一気飲みしたカップをカウンターに戻すと、少女はぼそりと呟くように言った。
「……悩みというのは、」
少女は顔を上げて先生を見た、「食べても食べてもおなかがへるということなんです」
「なるほど」
先生はパチンと指を鳴らした。すかさずカップに白湯のおかわりが注がれた。
「――ありがとう、」
一礼して下がったマスターはポットを置くと今度は皿の裏側を磨き始めた。
「そういうときは、とりあえず水を飲んどくといいですよ」
カップを傾けながら先生が言った。
「水はイヤですゴハンがいいんですっ!」
ダシッ! 少女はカウンターを叩いて先生に詰め寄った。先生はじっと少女の目を見た。一点の曇りもない濃い菫色の瞳は、――ゴハン大好き! 揺るぎなき少女の強い意思を映していた。
「そうですねぇ……、」
白湯を片手に先生がしばし考え込む。少女はじりじり答えを待つ。
「では、ダシ入りの水というのはどうでしょう?」
「ダシ入りの水……?」
未知への好奇心からか、少女の目がやや輝きを見せた。先生は続けた。
「そうです、ダシ入りの水です。人間お腹がすいていると感覚が研ぎ澄まされるでしょう? そういうときにダシ入りの水を飲んで、ダシの種類や組み合わせ、煮出した時間などを推測するのです」
「ほぇ〜、」
少女が感心したように頷いた、先生は畳み掛ける、
「集中して考えるのでその間はおなかのすいたのがまぎれるし、鍛錬で味覚が鋭くなれば美味しいものをより美味しく食べられるようになるし、どうです、ゴハン大好きっ子の君には一石二鳥でしょう?」
「わかりましたっ!」
立ち上がって少女は最敬礼した、
「以後、自分はペットボトルにダシ入りの水を持ち歩いていろんなものにぶっかけて食べまくります!」
――それから先生、少女はポケットから一枚のブロマイドを差し出した。何やらもじもじ照れながらサインをねだる。
「いいですよ」
先生は快く求めに応じ、自分とは何ら関係のないとある任侠スターのブロマイドにサラサラと筆を入れた。
「ほんとはさんでる教授のサインが欲しかったアルけど……」
受け取ったサインを胸ポケットにしまいながらミーハー心丸出しで少女が言った。が、すぐにフォローのつもりかニカッと無邪気な笑顔を見せる、
「あっでも、先生もですとろいやー界じゃそこそこ有名人アルよっ」
♪〜カララン、
後ろ姿も揚々と、足取り軽くおだんご頭の少女は店を出て行った。
「……なかなかのキレ者ですね彼女」
カウンターで先生がぽつりと言った。
「私の提案を受けてすぐに自分流にアレンジしてみせるところなんて、只者ではありません」
――ろしあ語を操るチャイナでかつ任侠スキー……どこの筋のお嬢さんでしょう……?
「……」
――先生、それは深読みのしすぎです、無口なマスターは思ったが、せっかくの重畳をいらんこと言いでわざわざ白湯浸しにするのも何だかなー、心にため息をつくと今度は皿の縁を集中的に磨き始めるのであった……。


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