感染接吻
来神の保健室は私室化した保健医によって占領されている。なまじその占領者は身体が弱く、出番の多いグラウンドなどへの出張を滅多に出来ずにいて、大義名分といえないでもないのだから放っておかれ今や踏み込み難い聖地となっている。
それでいて保健室にまともな用事が出来たとしたら、気配でも察知しているのか常の定位置であるベットの上でなく、きちんと椅子に腰掛けて怪我人を胡散臭い笑みを伴い迎える。処置を手際よく済ませ白衣を翻して定位置にそそくさと戻るので怠慢とは言い切れない。一部体育担当の教師である平和島先生などは抗議しているが、訴えの受理は今の処ない。
…決まりのパターンを崩してしまった僕は、はて、このくえない曲者をどうすればいいのだろうか。
「いいこと、しよ」
蕩けそうに甘い声音で言うそのひとの、寄せてくる魅惑的な造りの美貌を目で咎めつつ、手の平で自分の口元を覆う。
「折原先生、僕今風邪ひいてるので駄目です。お互い病弱な身の上で染みてるでしょう、イチコロに感染しちゃいますよ」
大体体調不良でいつも此処に居るんでしょうに。
カーテンで囲み遮断をしたベットに寄り掛かり、微かに軋ませながら距離を縮めて来られている。
保健医の奇人変人加減を語る噂のうの字も知り得ずに訪れた初回。頭痛でベットを貸して貰っていた処にさも自然な顔をしながら組み敷いた、この問題ある保健医の美しい造作を見上げた時のことが、昨日のことのように思い出される。
「別にいいよ、どっちにしろ俺も今風邪気味だし。そしたら看病してね」
「…じゃあ僕の看病、してくれます?」
「仕方ないなあ」
渋々な仕草のくせして声の感じと合っていない。
「もち、着替えさせてあげるし、身体だって拭いてあげるからね」
そうのたまった保健室の主は、ひどく楽しそうに額同士を接触したのち溜息を吐く熱い唇に、温度あるキスをした。
それでいて保健室にまともな用事が出来たとしたら、気配でも察知しているのか常の定位置であるベットの上でなく、きちんと椅子に腰掛けて怪我人を胡散臭い笑みを伴い迎える。処置を手際よく済ませ白衣を翻して定位置にそそくさと戻るので怠慢とは言い切れない。一部体育担当の教師である平和島先生などは抗議しているが、訴えの受理は今の処ない。
…決まりのパターンを崩してしまった僕は、はて、このくえない曲者をどうすればいいのだろうか。
「いいこと、しよ」
蕩けそうに甘い声音で言うそのひとの、寄せてくる魅惑的な造りの美貌を目で咎めつつ、手の平で自分の口元を覆う。
「折原先生、僕今風邪ひいてるので駄目です。お互い病弱な身の上で染みてるでしょう、イチコロに感染しちゃいますよ」
大体体調不良でいつも此処に居るんでしょうに。
カーテンで囲み遮断をしたベットに寄り掛かり、微かに軋ませながら距離を縮めて来られている。
保健医の奇人変人加減を語る噂のうの字も知り得ずに訪れた初回。頭痛でベットを貸して貰っていた処にさも自然な顔をしながら組み敷いた、この問題ある保健医の美しい造作を見上げた時のことが、昨日のことのように思い出される。
「別にいいよ、どっちにしろ俺も今風邪気味だし。そしたら看病してね」
「…じゃあ僕の看病、してくれます?」
「仕方ないなあ」
渋々な仕草のくせして声の感じと合っていない。
「もち、着替えさせてあげるし、身体だって拭いてあげるからね」
そうのたまった保健室の主は、ひどく楽しそうに額同士を接触したのち溜息を吐く熱い唇に、温度あるキスをした。