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デンノウノツカイ

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『本当なら新品のを用意したかったんだけど』
「い、いえ、そんな、悪いです」
『少し古いやつだし、何か問題があったら遠慮なく言って』
「大丈夫です」
『私より詳しい人が2人もいるしね』
 肩を竦めるセルティ・ストゥルルソンに、園原杏里は鞄ごと貰ったそれをギュ、と抱き締める。
 この日、杏里はパソコンを手に入れた。





「帝人君、何してるの?」
 教室に自分のノートパソコンを持ち込んで作業している竜ヶ峰帝人に張間美香が声をかける。
「あれ、張間さん、矢霧くんは?」
「委員会。だから待ってるの」
「そうなんだ、じゃあ丁度良いかな」
普段なら誠二にべったりの筈の美香が1人でいることに納得すると、帝人は彼女が画面を見易いように正面から少しずれる。美香が遠慮なく覗き込むと、画面にはプログラム言語がビッシリと並んでいた。
「園原さんがセルティさんにお下がりのパソコン貰ったんだって。セキュリティソフト頼まれていろいろ考えたんだけど」
「それで自作かぁ、愛だね!」
「そ、そうじゃなくて!」
美香は慌てる帝人を見て、照れなくても良いのに、と笑う。
「で、でさ、これで良いかなって。確認して欲しいんだけど」
「それは……、友人として? それとも相棒として?」
途端、ピン、と空気が緊張した。
 2人はビジネスパートナーである。MK-projectと名づけたインターネット限定の販売会社でプログラミングからクラッキングまで、コンピュータ上での技術やそれを形にしたものを商品として高校生の身でありながらかなりの額を稼いでいる(それぞれで副収入はあるが)。そしてそれ故に、彼と彼女の間には現実的な境界線がはっきりと引かれている、要は金銭だ。男女間のアレやソレなど欠片も存在しない、恋愛感情のベクトルが永遠に向き合わないことを知っているからこそ、良きパートナーでいられる。この関係性に疑問はない。
 しかし商取引が絡まない時の2人は友人でもあった。高校入学してから過ごした日々の友情に嘘偽りはない。
「その中間、かな。お金のやり取りがあったわけじゃないから元手はないんだけど、中途半端なものは渡したくない」
キッパリとそこまで言っておいて、ヘニャリと表情を崩す。
「友人割り、効かないかな?」
公私の区別がついているのかいないのか、職業人にあるまじき台詞にしかし、美香も笑みを返す。
「良いよ、杏里ちゃんは大事な友達だもん。共通の大事な人、ってことで10割引きにしてあげる。でももうすぐ誠二の委員会が終わるから、家に帰ってチェックしても良い?」
「うん、お願いするよ」
「じゃあコレ、そのまま杏里ちゃんに渡しておくね」
CDに焼きつけられたソフトを受け取ると、美香は手を振って教室を後にした。
「……帝人君は奥手だなぁ」
 その表情に悪戯めいたものが浮かんでいることに気づけなかった帝人は翌週、後悔することになる。





 杏里は美香から受け取ったソフトをパソコンに入れ、ファイルを開く。説明書には印刷された万が一の時の権利と責任の所在、禁止事項と、開けてみれば分かるよ、という手書きの文字しか書かれていなかったので読み終えた後は片づけてしまった。画面に現れる指示に従って操作しながら、帝人君も美香さんもすごいなぁ、とぼんやり思っている内に凡その作業は終わっていたらしい。
『最後に個人識別のための写真を撮るよ、笑って』
と、美香らしい口調の文字が表示され、次いで杏里自身の顔が映り、笑って、の指示通りぎこちなくも笑顔を作る。
『これで終わりだよ、お疲れ様。終了ボタンを押してパソコンを再起動させてね、バイバーイ』
カチリ、と終了ボタンを押して再起動を待つこと数分、明るくなった画面の角に何かいた。
 ストライプのシャツに白いズボン、緑で縁取られた白いベストと目を覆う緑色のサングラス。杏里が画面を覗き込むと千切れんばかりに手を振ってくるマスコットのようなものは、
「……帝人君?」
何故かデフォルメされた帝人だった。
 しばらく眺めているとマスコットの動きが変わる。クルクルと回ってみたり、携帯電話を用いて写真を撮ってみたり、フライパンで何かを焼く動作をしたり、とあまりじっとしていない。何なのだろう、と彼(?)をダブルクリックしてみると概要が表示された。
『セキュリティマスコット/電脳の使い ―学園天国帝人―』
 セキュリティソフトが正常に作動していることを示すマスコットだが人格があり、使用者の育成次第では他にも機能が追加され、デフォルメの度合いも変わると書かれてある。
『頑張って学人君を育ててね』
 凡そテレビゲームもしたことがない杏里はどうすれば良いのか分からずに俯いた。





 1週間後

「園原さん、あのソフト問題ない? 大丈夫?」
「はい、一昨日喋るようになりました」
「え、喋る?」
「え……?」
 噛み合わない会話に2人は揃って首を傾げる。帝人はただのセキュリティソフトを渡したと思っていて、杏里はもともと帝人に頼んだので彼は知っていると思っている。噛み合う筈がない。
「……ごめん、今度見せて貰っても良いかな?」
「あ、丁度、今日持って来てます」
昨日、喋るようになった、と報告したら美香が見たいと言い出し、そんなに重くないので学校に持ってくることにしたという。昼休み、昼食もそこそこに杏里はパソコンを開く。見物客は帝人、美香、美香に引っ張られてきた誠二、いつものように隣のクラスからやってきた正臣で、
「!?」
「誠二、これ私がやったんだよ! 凄い? ねえ、褒めて!」
「……そっくりだな」
「うはっ、何だコレ!」
画面上に現れたマスコットにそれぞれが反応を示す。
「は、ははは張間さんんん!?」
「チェックついでにいじっちゃった」
「いじっても良いけどコレはない!! 何なのコレ!? 何で僕!?」
「帝人君が作ったから?」
「僕はこんなの作ってない!!」
顔を真っ赤にして喚く帝人にクラス内の視線が彼等に集まるが誰も彼も、ああ、またアイツ等か、と各々の行動に戻っていく。
「園原さん、い、今すぐ消して!! 新しいの作るから!」
「!! 嫌です、学人君、ここまで育ったのに……」
「育成ゲーム!?」
まるで捨て猫を拾って隠れて育てていたのが親にばれたかのような表情をする杏里に帝人は言葉を詰まらせた。しかし画面内では帝人の顔をしたマスコットがハートマークを飛ばして投げキスをしていて、帝人の羞恥心が爆発する。
「僕はこんな正臣みたいなことしないッ!!」
「ちょ、それどーいう意味だコラ!?」
 正臣のツッコミが届く前に、帝人は教室から逃げ出した。





「ところで、これ、商品として成り立つかな?」
「なるとは思うけど、もう僕の顔は使わないでね。訴えるよ?」
「それでも勝つよ」
「……………………」
作品名:デンノウノツカイ 作家名:NiLi