THW小説⑥ ~ 絆 ―2・23作戦― ~
台東区での作戦は,終了し,俺は本部へと戻った。
魚屋の姿は,まだない。
「・・・・」
俺は,無言でインカムを棚に戻した。
「お疲れ様でした,碧風さん。」
ジンさんが,コーヒーをもってきてくれる。
「ジンさん。ずっと本部に居た?」
「はい。」
「魚屋は?」
「・・・まだ,です。連絡も,何も。」
少し,眼を伏せて,ジンさんが言いにくそうに言う。
「・・・ザビ,は?」
「・・・隊長は,部屋に入ったっきりです。」
「・・・・」
俺は,隊長室のドアをじっと見つめる。
・・・何故,あんな命令を出した?
ザビの意図は,全くわからない。
拳を握って,問いただしたい気持ちをグっとおさえる。
「・・・碧風さん。こちらで,一緒に戦況を見守りませんか・・・?」
少し,控えめにジンさんが俺を促す。
「・・・ああ。そうだね。ありがとう。」
俺は,戦況が一望できる作戦室へと足を向けた。
作戦室には,作戦を終えたSSWのメンバーが集まっていた。
魚屋の安否を気遣う声。
「大丈夫だよ,あいつなら絶対・・・!」
俺に励ましの言葉をかける仲間。
だが,その根拠はどこにもない。
戦況は,依然として,占領パーセンテージ赤100。
その数値は変わらない。
ヒソヒソと,不安の声があがりはじめる。
「流石の魚屋さんも・・・」
「あれは無謀だわ・・・」
・・・もう,俺も限界だ。
「碧風さんっ・・・!!」
ザビを,問いただそうと,ジンさんを振り切って作戦室を出ようとしたとき。
「あっ!!!!」
背後から,誰かの叫び声が聞こえた。
バッと振り返る。
見ると,中野区の占領数値が,どんどん減っていっていた。
100・・・99・・・98・・・97・・・
わああああああっ!!!
作戦室は,一気に歓声が沸きあがる。
「やったーーー!!!」
「よかったーーーー!!!」
ぴょんぴょんと抱き合う仲間たち。
俺に握手を求めてくる人もいる。
「碧風さん・・!よかったですね・・・!」
ジンさんも本当に喜んでくれている。
「ああ。・・・ザビを殴らなくてすんだよ,本当にな。」
俺は心底ほっとして,その場にしゃがみこんだ。
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数十分後。
魚屋は本部に帰還した。
その姿はボロボロで,上半身をまとっている服は,もはや布キレだ。
「魚屋さん!!」
「おかえりなさい!!!」
一斉に,玄関で迎える仲間達。
魚屋は,ゆらり,と一歩,中へ入るや否や・・・
「どや!!貫通してきたで!!!!!!」
ドヤ顔で,自慢の筋肉をムキムキし,魚屋は全員にみせつける。
おおおおおおおお!!!
うわああああああああ!!!
その場のボルテージは最高潮だ。
・・・こいつ,不死身だ。
すげぇやつだ・・・・
俺は,少し離れた場所から,素直になんだか感動しながら,その様子を眺めていた。
「おつかれww」
トントントンと,ザビが階段を下りてきた。
「おつかれ,じゃないぜーーww 何だ,あの命令w」
ニヤニヤと魚屋が応酬する。
「俺の大事なアレ,やっただろ?これくらいしてもらわなw」
「そーいうことかw アレの代償かよw なら,仕方ねーなww」
・・・アレって何だ?
いや,そこじゃない。それもあるけど。
そうじゃなくて,どうしてこんなに簡単に,魚屋は命を懸けられるんだ・・・!!
・・・腹が立つ。
こんな命令を平気で出すザビにも,ザビの命令に忠実に従う魚屋にも。
そして,笑い話で済ませられる,二人の間の信頼関係・・・そして絆にも。
・・・なにもかも,腹が立つ・・・!!!
もう,何が何だかわからない,とにかく「怒り」という感情だけが,俺を支配する。
ギッ,とザビを睨む。
「な・・・何だよ」
ほんの一瞬,ひるむザビ。
殴ってやりたかったが,それよりも,今は。
くるりと振り返って,ギンッと魚屋を睨む。
「あ・・・兄貴・・・こえーよ,黒いオーラが・・・!」
俺は,怒りにまかせて,魚屋の耳をグイっとつかむ。
「あっ,ちょっ,いてっ!!」
魚屋が非難の声をあげるが,聞こえない。
耳をつかんだまま,ズルズルと魚屋を部屋へと引っぱっていった。
静寂。
そして。
「ぎゃあぁああああぁあぁあぁあぁ」
・・・・魚屋の悲鳴が,本部中をこだまする・・・
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「ねぇねぇ,めいみさん。何で碧風さんは,あんなに怒ってたの?」
「それはね,はるくちゃん♪それは,複雑な男心よ♪」
「・・・結局,アレって,何だったんですかね?」
「アレはア・レ・よ♪お子ちゃまは知らない方がいいわん♪」
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その後,手当された魚屋が部屋から出てきたが,
傷がかなり増えていたことは言うまでもない・・・
2011.02.23プロット
2011.02.26本書き
作品名:THW小説⑥ ~ 絆 ―2・23作戦― ~ 作家名:碧風 -aoka-