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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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インザスムースエアー

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「うおーい、風呂出たぜー」
頭をわしわし拭きながらそう告げると、ベッドの上で携帯をいじっていたイヴァンがいかにも嫌そうな顔で俺を見た。布団と扇風機を占領してなお不満があるらしい。
「なあにそのお顔は、ご飯も作ってあげたでしょーに」
「……何でお前が先に入るんだよ」
「はぁあああ?年頃の娘とそのパパじゃあるまいし」
「変なにおいが付いてそうで気持ち悪いんだっての!」
酷い言い分である。というかそもそもこの部屋は俺の借りている部屋で、既に一年半くらいはここに住んでいるわけで、においがどうのと言うならイヴァンの馬鹿はこの部屋に入ることもできないはずだ。人のベッドの上に座るのは平気で使用後の風呂場を使うのは嫌なのか。妙な潔癖症だな。
まあ、俺は大人なのでギャーギャーと見苦しくわめくイヴァンは見ないふりだ。何せこいつのアパートは風呂がないどころか、トイレ洗濯機台所が共有という今時簡単には見付からない骨董品だし。銭湯に行く金すらない後輩にシャワー代を貸してやるくらいお安いご用だ。
ぶつくさ言いつつも、夏の夜の息苦しさに耐えられなくなったらしく、イヴァンは大人しく風呂に向かった。タオルは持参だ。基準が分からん。俺は扇風機を止めると、窓を全開にして勢いよくうちわをあおいだ。網戸はこの前取り外して洗って、ついでにきちんと取り付けたので、最後まで閉まるし風通しはいいしでなかなか素晴らしい。
「はー、夏だねえ」
しみじみ呟いても涼しくはならないわけだが、俺はパンツ一丁のまま三回ほど言ってみた。扇風機を止めたのはしばらく半裸でも冷えないようにするためだけど、そろそろ服を着て明日の準備でもするか。ついでにイヴァンちゃんのアホに麦茶でもふるまってやろう。
ああ、俺ってなんてかいがいしい。





イヴァンは俺のひとつ下の学年だが、いわゆる幼なじみというやつで、この年になっても昔と変わらない口調で話しかけてくる。というか成長した分昔より口が悪くなるわ可愛い気がなくなるわ身長は抜かされるわでろくなことがない。ただし俺は優しい偉い素晴らしい先輩なので、こんな礼儀知らずが風呂を借りに来たり飯をたかったりしても笑ってオーケーしてやる。ついでにベッドを占領して寝くさりやがったアホを優しく蹴り起こしてやるサービス付きだ。俺は壁際に立って、フリーキックを決めるプレイヤーのごとき足さばきを披露した。イヴァンはボールみたいに空中高く舞う、はずもないが、床にごろごろと転がり落ちて「ふげぅがっ」とヒキガエルみたいな声を出した。
「げふっ、んなっ、何しやがるこのクソ野郎!!」
「人間目覚まし時計デスヨ?効果バッチリ、お目めパッチリ」
「ざっけんなこのクソ!ブタ!!」
朝から随分なテンションだ。実は高血圧なんじゃねえのこいつ。俺は真顔で血糖値を下げる食べ物とかを教えてやろうかと思ったが、アホに構っていると俺が遅刻するので真顔のまま無視することにした。俺が真顔のままシカトしたので、妙なところで空気を読むイヴァンちゃんは急にしおしおと叱られた猫みたいになる。口汚なさは直らないけど覇気がなくなる、みたいな。そうそう、それで大人しく着替えて出かける準備をしてくれなくちゃね。同棲中のカップルじゃあないんだから、鍵を共有したり合鍵渡したりなんて行為、お兄さんしたくありませんよ。
というわけで、イヴァンに昨夜の荷物と今日の荷物を持たせて、俺は安心して自分ちの鍵をかけた。朝帰りで一緒に出るのも、できれば登下校する相手も、俺としては可愛らしい女の子の方がよかった。っていうかわざわざ人の部屋に泊まるなよ。イヴァンのアパートはここから歩いて五分くらいしかかからないのに。
イヴァンは現代っ子の癖みたいに携帯をいじりながら歩いている (ちなみに俺が思うに癖はあといくつか存在して、妙な潔癖症や、物事を重要だと判断する基準が違う、ってのがあると思う)。その内車に轢かれて死ぬよ?と三回か五回は言ったけど改善されないので俺はもう知らない。俺こいつのママじゃないし。一緒に歩く相手に楽しい話題くらい提供してもよくないか?
まあ、学年が違うから仕方がない。校舎までまっすぐ二百メートルって距離になると、俺とイヴァンそれぞれの友人がぽつぽつと現れ、俺らはまるで磁石みたいにふらふらそっちに引き寄せられてしまうから。気分としては毎日同じ車両に乗る同じ駅の人、みたいな?そんな考えも離れて二十秒くらいで頭の奥に沈む。
幼なじみって何だよ。辞典もしくはゲームにしか存在しないと思っていた。幼い時の馴染みが、十年後にもよい友達であるわけがない。十年後にもよい友達でいられる友達は、ある程度分別が分かって、自分が世間の中でどうあるべきか理解した時にようやく出来始める。早くて今頃から、遅い奴にはきっと一生出来ないはずだ。そんでそういう奴は頻繁に友人が入れ替わって空しい思いをする。ま、どうでもいいけど。つまりは幼なじみだからってべったりくっ付いて離れない、みたいな関係はありえないってことだ。イヴァンのアホが嫌いなわけじゃないが、もしかしたら明日から絶交するかもしれない。そしてそれを恐れてはいけないわけだ。幼い馴染みなんてそんなもんだ。
なんて馬鹿げたことを考えるのは暑くて暑くて死にそうだからだ。どうしようもない内容すぎて俺はもう死んでいるのかもしれないと思えてくる。朝にちょっと頑張ってセットした髪が哀れにもしぼんでいる。濡れた犬みたいだ。クラス全体が濡れて水がたまって今にも沈没しそうだ。海かー、海いいなー、海行きたいなー行っちゃおうかなー、今日。
「あ、そうだ、今の内に言っとくな、朝言い忘れたんだが」
担任でもある数学教師オルトラーニせんせいは、古ぼけた腕時計を確認して急に話題を変えた。logの計算式を真剣に見つめていた奴と諦めて突っ伏してた奴とそもそも聞いていなかった俺みたいな奴らが、何だ何だと教師の方を向く。眼鏡の数学教師は全員の視線が集まったことに少し驚きつつ、
「今日の放課後だけど、委員会の召集があるから。何たら委員とか何とか委員とか、その辺になってる奴は四月にも集まった場所に三時までにだな……」
と健気にも最後まで言おうとして、「今日の放課後」から生徒のブーイングにあって声がかき消えてしまった。俺もブーイング係のひとりだ。おいおいせんせい、今時放課後に委員会なんてあるのかよ?もう嫌がらせにしか思えない。普通は昼休みに集まってどうでもいい当番とやる気のない目標を決めて終わりだろうに。俺は偉いから四月の委員会を覚えているんだが、出席率が異常に悪くて即解散になっていた。即解散が印象的すぎて何の委員会だったか覚えてないくらいだ。
ブーブーと終業のチャイムに負けないように、健気な数学教師(髪は長いけど将来てっぺんだけハゲそう)が全員の属する委員会と集合場所を怒鳴っていた。俺?風紀委員?西館二階数学準備室脇の教室集合?どこそこ?





「おいこらそこのジャンカルロ。逃げたら前期の数学、1にするからな。午後もサボんないでちゃんといろ」
授業が終わって即教室を出ようとした俺の後ろから声がかかる。冴えない地味系数学教師かつ担任のオルトラーニせんせい。長髪が暑ッ苦しいのか後ろでひとつに束ねている。