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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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インザスムースエアー

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えええそれ職権濫用じゃねえの~と俺がブーたれると、眼鏡教師は嫌そうに(暑そうに?)目を細めた。
「四月の委員会、出席しなかった奴は皆ひとつ下の成績にしてある」
「はああマジでえ?じゃあ俺出席したよ!四月はいたって!」
「知ってるよ、俺が風紀委員会顧問だし」
ああ、そういえばいたね。前に座って退屈そうに足組んでた教師。
「じゃあ評価上げてよ。5とか」
「無理だ。というかジャン、お前今回欠席だと数学の成績が空白になるぞ?成績付かないと自動的に留年決定だぞ?」
x-1=0。て。俺の今の成績1かよ。
そんな俺の間抜け顔を見て、数学教師は何がおかしいのか口の端を少し持ち上げた。あとには何も言わずにさっさと教室を出ていく。
大丈夫だジャン補習があるし追試もあるしドゲザもある一緒に三年なろーぜー、耳ざとい上に勘違いした内容の慰めをくださるクラスメイト達にうぃーと歯茎を出して答える。そこまで深刻じゃねーし馬鹿でもねえよ。そ……こまで……、しん、こく、じゃ……ねー……よ……?ないよね?
実はあの担任教師にも、俺は少し馴染みがある。去年も担任だったとかそんな近いところじゃなく、あいつが運動会で転んで涙目になっていることまで知っている仲だ。つっても俺の実体験じゃなく彼、ベルナルド・オルトラーニせんせいの母親から伝わってきた情報だけど。家が隣なのだ。
せんせいが大学に入った辺りからめっきり会うこともなくなっていたので、この学校で教師としてやっているさまを見た時には驚愕したもんだ。おいおいどんなドラマチック展開だよと思ったが、生き別れの兄弟が再会したとかそういうわけでもない。向こうからの親しさもこちらからの親しみも特にない。いっそ塾の知り合いにスーパーで会った時みたいな気まずささえ覚えて、しばらくは見るだけで緊張していた。さすがに一年半たってそれもなくなったけど、まさか成績を盾に生徒を脅す域まで成長していたとは。恐れ入ったよ。
俺と知り合いということでせんせいはイヴァンとも付き合いがあるみたいだった。ただし向こうの方が幼いというか人見知りするというか、お互いに借りてきた猫みたいになっていた。廊下ですれ違ったのをはた目に見ただけだから、細かいことはいまいち分からないけど。





西館二階数学準備室脇の教室ってただの物置じゃねーかよ!何を思わせぶりな発言してるんだよ!こん中に十人も二十人も入るわけねえだろ!
と、いう表情を俺は作ってみせたが、陰険眼鏡数学教師は気にするでもない。いかにもな物置を教室にすべく、放置されていた机を並べ替えたりしている。
「なー、これ絶対全員入んねえよ。部屋変えたら?」
「これで充分だよ。今日来るのは多くて五人だからね」
「は?風紀委員って全校で五人しかいねえの?」
そうなると四月のアレでフルメンバーだ。名誉職みたいなもんなのか?せんせいは机を並べ終えると窓を開けて風通りを多少改善する。
「前回来なかった奴らに声かけたから。成績が惜しい奴は来るよ。見込み五人」
「ひでえー……」
「学校行事に参加しない連中が悪い。早く座れ」
それでもお前教師かよう。成績につられて、というよりは強引に腕ひっ掴まれて来た俺の人権はどこに消えたんだ。ってか他の連中も成績欲しさに来る奴らかよ。風紀委員会じゃなくて生徒指導室の間違いじゃねえの?
「うわっ汚ね、軽音の部室かよ」
やる気なく机にもたれた俺の耳に、意外な、といっても聞き覚えはある人物の声が聞こえてきた。ぼんやり顔を上げると、入り口に突っ立ったまま中に入らないアホと目が合う。
「あれ、イヴァンじゃん。生徒指導室って本館のてっぺんじゃなかったっけ?」
「ちっげえよクソ風紀委員だよ!誰が生徒指導室なんて行くか!」
「よっぽど成績がやべえんかと思ってた」
イヴァンちゃんそこでぐっと反論につまる。馬鹿なのは不動の事実だからな。まあここにいる時点で俺も相手のことを笑えないわけだけど。せんせいがイヴァンを急かして座らせる。何故か俺の隣に。確かに長机じゃなくて、普通の教室で使うような椅子と机だけど、狭いから男二人並ぶと暑苦しいんですよね。イヴァンは相変わらず借りてきた猫状態で、大人しく指示に従ったりしていた。血の繋がらない親子かお前ら。
「あっちぃよせんせい。もう終わらせようよ。目標は『正しい学園生活』で、当番は夏休み中ずっとせんせいでいいからさー」
「それじゃあ何のためにお前らを呼んだのか分からないだろうが。俺としてはこのまま数学の補習でも構わないけどな」
「んげっ」「げえっ」
俺とイヴァンが二人揃って踏み潰されたような声を出した。補習って!補習って!!そっちの方が信憑性があると思ってしまったじゃんかよ!やだよーやりたくないよー暑いよ水遊びしたいよう。
俺がマジで泣きそうになっていると、西館の古い床にバタバタといくつかの足音が響いた。どうやら残りの連中が来たらしい。どうでもいいよ早く終わらせよう?俺のしかめっつらは廊下から漂う甘ったるい香水のにおいで更に歪んだ。誰だこんな暑い時に香水ぶっかけてるアホは。
「何だこりゃ、男ばっかりだなむさ苦しい」
「……失礼します」
おいおい来る連中全員文句言いながら入ってきてんぞ。鼻を塞いだ俺の頭を香水ぶちまけ野郎が押し潰す。俺は本日二回目のヒキガエルの鳴き声。ブヒィ。
「よーう、相変わらずイイ金髪だな?」
「……ブヒ、あーら、ルッキーニせんぱい……」
「変に名前変えんのやめろって何回言わせんだよ」
「ブヒ……せんぱい香水きっついんだけどォ……」
声の節と一緒に頭押し潰すのやめてもらえませんか。ただでさえへたった俺の髪の毛が可哀相なくらいくしゃくしゃにされる。赤毛の上級生(身長も体格も態度もでかい)は散々俺の頭を撫でくり回したあと、何の嫌がらせか俺の目の前の席に座った。物置小屋には似合わない存在感だ。
「ってかせんぱい、風紀委員だったっけ?」
「ああ。俺も今日初めて知った」
「こいつ、後ろから声かけた俺にガン付けて『ああ?』とか抜かしやがったからな。今成績マイナス5だ」
「だからわざとじゃねーっつうに」
不快そうに数学教師は口を歪める。いつの間にか手にしていた指示棒でぺちぺち机を叩くおまけ付きだ。
せんぱいルキーノ(名字は忘れた)は去年だかに文化祭だかで知り合ったんだと思う。というかでかくて目立つので、喋ったことはなくても一方的に知っている奴は大勢いるだろう。俺もその中のひとりだったわけだが、どういうわけだか他の行事でもちょいちょい一緒になる機会があって、それで多少は喋るようになったのだ。他の上級生に比べて、というだけで、とりわけ親しいわけじゃないけど。
それにしたってこちらに話しかけてきた第一声が「お前の髪いいな」ってのはどうかと思うよ。髪の毛ひんむかれてヅラにされるかと思ったぜ。
そんな理由で、あまりこの人の手が伸びる位置にいたくはないわけだが、せんせいはそんなことにいちいち気を遣ってはくれない。手にしたチェック表で眉を寄せながらブツブツ呟きつつ(「あの馬鹿どもマイナス3だな」)、不意に顔を上げて、部屋の奥に目をやった。
「ん?ジュリオ、お前は来なくてもよかったんだぞ?」