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コーコーセーゴーホーム

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 気がつくと部屋の中へ差し込む光も大分弱くなり、だんだん夜が近づいていることを知る。水谷の親もそろそろ帰ってくる頃だろう。帰ろう。帰ってメシ食ってフロ入って寝れば少しは元気になれるはず。
 戸口で踏み止まる、水谷に何か一言声をかけて帰るべきなんだろうかと。
「オレ帰るよ」
 そう告げると水谷は下を向いたままぼそりとつぶやいたが、あまりに小さい声だったからよく聞き取れなかった。感じわりぃ。もう今日は水谷に関するすべての期待をあきらめることに決め、ドアノブに手をかけたら背中へでかい声が浴びせられた。
「やだっつってんだろ!」
 立ち上がってこちらへ歩いてくるなり手首を強く握られた。向き合っていなかったのはほんの数十分だったのに、やたら久しぶりに水谷の顔を見た気がする。それは水谷も同じだったらしく、オレの目をまじまじと見つめ返し「さかえぐちのバカ」と悪態をついた。
「もっとオレを責めろよ、ダメな奴だって」
「そんなこと思ってないし」
「優しくすんなよぉ、オレすっごい情けない奴になっちゃうじゃん」
「ああ、そう言われてみると情けないよな、確かに」
 するべき気遣いもせず、促されるまま同意しただけなのに水谷はへなへなとオレの肩へ頭を置いた。変なの、さっきより明らかに緊張が解けている。襟足を2、3回わしわし撫でてあげると、へらっと顔を崩した水谷が猫みたいにごろごろとオレに懐いてくる。
「なんかさー、オレ緊張するとだめみたい」
「あー……、ていうか水谷緊張してた?」
「バッカ、しまくりだっつの!」
「……リ、リラックス!」
「サードランナー的な何かか!」
 そこで二人してふき出して、今まで黙り込んでいたぶん、涙が出るくらいケタケタと笑い合ってしまった。水谷はオレの目尻に溜まっていた水分を指で器用に拭い、そのままあごを寄せてキスをした。考えてみると今日は身体をどうにかすることで頭がいっぱいで全然キスをしていなかった気がする。
「……うあー、やべ」
「なに」
「立った」
「はぁ?」
「栄口、今から……」
「バカか? そろそろ家の人」
 予感は見事に的中し、遠くから水谷のお母さんらしき人の「ふみきー」と呼ぶ声がした。水谷はばつの悪そうな顔で呼びかけに答え、ドアから顔だけ出して、オレがいるけど今帰ることを告げた。
「送ろうか?」
「ソレで?」
 玄関で靴を履くオレがそう言い返すと、水谷はいやんと身体をくねらせた。
「また来いよぉ」
「ならサードベースでも用意しとけ」
「じゃあ枕でもサードランナーにして今日から特訓する」
「ぶっ」
「そんで今度はホームラン!」
 ずいぶん調子の良いことを言うものだと小突いた手を取り、水谷はオレの手の甲へ唇をつける。たじろぐオレへ上目遣いで静かに笑い、するりと手を離す動作が手馴れているようで妙にむかつく。
「またのお越しをお待ちしております」
「……そういう余裕がなんでさっき出せないんだよ」
「うるせー」
「じゃ」
「おー」
 手を振る水谷を見ながらドアを閉める。ああ本当にあの野郎はどうしようもない奴だ、でもなんとなく好きになってよかったと納得してしまうのはあいつの一種の才能じゃないだろうか。
 水谷の家からオレの家までは大分距離があるけれど、手の甲へ唇の感触がずっと残っていて、自転車のハンドルを掴む右手ばかり気になった。家のすぐ近くまで来たらポケットの中でメールの着信を知らせる音がした。自分でも少し期待しすぎだとは省みてはいるのだけれど、ハートの絵文字がうねうねしているメールがまた水谷から届いているのだろうかと思い描き、軽くニヤついたオレは誤魔化すように自転車をこぐ速度を速めた。
作品名:コーコーセーゴーホーム 作家名:さはら