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鉄の棺 石の骸番外4~住めば都~

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 神の居城、アーククレイドル。
 未来のサテライトを渦巻状に再構成した巨大要塞は、人類が残した貴重な物品の宝庫でもある。
 未来組の計画の遂行や日々の生活の為には、サテライト遺跡の発掘作業が欠かせない。
 大抵は壊れた機械や食われないないまま街に残された保存食。たまに人類が繁栄していた時代の書籍やソフトが手に入ることもある。
 デュエルモンスターズのカードなんて手に入ったら御の字だ。
 望みの見えない人類救済計画なんかに携わっていると、どうしてもメンバーの心がささくれ立っていく。それを潤す為の手段として息抜きのアイテムは欠かせないのだ。

「昨日見つかったのはこれくらいですね。探していたデュエルディスクの部品が手に入ってよかったです」
「風が強くなければ、もう少し遠くまで探しに行けたんだけどね」
「遠く行きすぎて遭難なんて、この時代では洒落にならないぞ」
「年老いてなければそんな心配しなくて済んだのだがね」
 昨日アーククレイドル外部で見つかった物品を研究室で広げ、生き残り四人はしばしの歓談に勤しむ。使えそうな物品があれば、山の中から取り出して各自で持っていく。
 各自の席には、おやつとドリンクボトルが並んでいる。ドリンクボトルには、それぞれメンバーのネームラベルが貼られている。

 アーククレイドルで男四人が充実した共同生活を送るためには、生活上のルール制定は欠かせない。
「自分の大事なものには自分のネームラベルを張っておき、許可なく人のラベルのものに手を出してはならない」というのもその中の一つ。昔も今も、食べ物の恨みは恐ろしいからだ。
 これから過去を変えて未来を救済する大いなる使命が、食べ物一つで完全崩壊するなど、あってはならないことだ。
 なのでこのルールばかりは自主的に厳格に守られ、ネームラベルが足りなくなると速やかに補充される。

『20xx年xx月xx日。天気は曇。七時四十五分。昨日外の遺跡で見つけた物品の中に、SF映画のソフトがあった。当時の有名な映画らしい。続きものだろうか?』
『食事が済めば早速上映会だ』
『決闘者ドキュメンタリーが見つかればなおいいのだが、中々思うようなソフトが見つからない。不動遊星関連のものが見つかれば、Z-oneが大層喜んでくれるので、これは特に重点的に探している』


 白い割烹着を着込んだZ-oneが、台所からお玉片手に仲間を呼んでいる。
「アンチノミー、パラドックス、アポリア。ご飯できましたよー」
「おう」
「はーい」
「分かった、すぐ行く」
 当番がご飯の支度をしている間、残りの人員でテーブルを拭き、食器を出し、食事をよそう準備をする。
 全員揃って席に着けば、楽しい食事の始まりだ。
 今日の食事当番は、Z-oneだった。
 彼は鋼鉄の義手を細やかに操って包丁を扱う。食材は、遺跡と化した街に残された缶詰などの保存食であるが、それでも比較的人間的な食事が作れる。ここだけの話、Z-oneの手料理はとてもうまい。
 不動遊星の性格が表面化している時は、栄養クッキーとミルク飲料を食卓に置いて終わりにされてしまうが、そうでない時はきちんと料理を作ってくれる。
 できるのは男の料理のそのものの他三名にはありがたい存在だ。彼は正に人類の希望だ。
 後にZ-oneがフライング・ホイールに引っ込んでしまった時は、三人総出でキッチンの改造をしたくらいである。
……ちなみに、「Z-one」と「不動遊星」を簡単に見分けるコツがある。彼が深夜まで夜更かしする日数が二日以上続き、それでもまだ見かけはピンピンしている時だ。
 未来組の充実した食生活の為には、彼の生活リズムのレポートは欠かせない。

『20xx年xx月xx日。少し日が差してきた。八時。今日の食事当番はZ-one。献立は白米と肉じゃがと御みそ汁とほうれん草の御浸し、それと卵焼き。毎度ながら、とても美味しい。特に卵焼きが』
『世界が滅びるまで、私はあまり日本食を食べたことはなかったが、Z-oneのおかげで今ではよく食べている。Z-oneは納豆がないのが残念だそうだが、作れないからドライので我慢するしかないらしい』
『彼は、昨日まで不動遊星の行動パターンをなぞっていた。昨晩からZ-oneのパターンに切り替わったので、今日の食事が悲惨なことにならなくて済んだ。神に感謝する』
『……しかし。何故かZ-oneは割烹着がよく似合う。全体的に白いからか? この前フリルエプロンを着ていた時はそういう趣味かと疑ったが、どうやら使えれば何でもいいようだ』


 パラドックスは、自他共に認めるレポート魔だ。この世は全て実験場という信念を基に行動する彼に、研究レポートは欠かせない。
 普段はそうでもないのだが、ことあるごとにそれは仲間にも求められる。日々の日誌や、生活上のトラブルについての反省レポートなどだ。
 恐ろしいことに、パラドックスは、今まで仲間が提出したレポート全てを、きっちりデータベース化して保存していた。

「アンチノミー、二ページ目の三行目から八行目、コピペ」
「……何でいつもばれるんだ……?」
「アポリア。三ページ目の最終三行、コピペ。原稿用紙三枚程度のレポートならコピペなしで十分だ」
「そんな殺生な」
 提出されていたのは、アンチノミーとアポリアがアーククレイドル内外で発掘した物品のレポートだ。滅亡した人類の遺品は、計画で何かの足しになるだろうと日々レポートがまとめられている。
「当り前だ。出されたレポートは全て、コピペ対策ソフトにかけているからな」
 パラドックスの愛用のコピペ対策ソフトは、今までに蓄積されたデータベースを検索して、同一単語がある程度以上並んでいる時に警告する仕組みだ。
「そんなに厳密にしなくても、いつもどおりでいいじゃないか」
「そうだぞ、レポートには変わりないのだし」
「人類救済計画という大いなる研究の前に、コピペ流用のレポートなぞ不要だ。Z-oneを見たまえ。彼は対策ソフトに引っかかったことなど一度もないぞ」
 故に、パラドックスはZ-oneを気に入っていた。
「君もZ-oneもプロじゃないか……元科学者だろ」
 前職がD-ホイーラーと兵士というばりばりの体育会系二人は、自分たちにすれば不必要なほどの科学者の細かさにうんざりした。

『20xx年xx月xx日。八時三十三分。本日、アンチノミーとアポリアのレポートの提出期限日。しかし、コピペの数が私の許容範囲外だったので、再提出決定』
『私にはコピペ作戦が通用しないということを、いつになったら彼らは覚えてくれるのだろうか?』
『これで、情報の編纂作業が一日遅れる。一人でやるのは簡単だが、生き残りが一丸となって行うこの作業は、日々の生活がマンネリに陥らない為の私の思いやりである……』
『私にとって、長期的な手持無沙汰以上に絶望するものはない。役割を与えてくれたZ-oneは私の最後の希望だ』


 夕方。アーククレイドルを落ちていく夕日が赤く染めていった。
 アーククレイドルでは、大体この時間帯まで計画の実行に向けて各々の役割を果たす。