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それは……

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それは唇の感触だった。


「おはよ、正臣」
「・・・・・・わりぃ、もう一回寝る」
 上を向いた頭をもう一度机にうつ伏せて正臣は感じたことを整理しようとする。
 今は夕方で、委員長の仕事をしている帝人を待ってて寝てしまった。なんともわかりやすい。
「もうっ、園原さんは用があるからって先に帰っちゃったよ」
「おぉ、そっか」
「本当に眠いの?」
 テンションの低い正臣に帝人は首を傾げる。
(あれは、唇の感触だった)
 夢うつつに感じたもの。
(帝人、もうちょっと反応があるべきだろっ!)
 何ら変わりない親友の調子に正臣はツッコミを入れたくなる。
(いつからさらっとそんな事する子になったの? お父さん許しませんよ)
 保護者気取りでの説教は言葉になることなく胸の内で溜まる。
 帝人の挙動におかしいことはない。
(なんだなんだ? 俺が勘違いして空回ってる痛い子ちゃんか?? 舞い上がり損か?)
 思わず深いため息がこぼれる。
「なんか、いい夢見てたの邪魔しちゃった?」
「んー、ちょいと屈みなさい」
 上目遣いでじっとり見つめると帝人があからさまに表情を変える。
「え、なんかヤダ」
「いーから」
 正臣は帝人のネクタイを引っ張る。「やめてよ」なんて上擦った声は無視だ。
 帝人のシャツがよれてネクタイが伸びるのも正臣の知ったことではない。
「んぅ」
 やわらかい唇の感触。間違いなく正臣が狙いすました唇だ。
「・・・・・・あまい」
「あ、マシュマロ食べてたから」
 顔を赤くしながら帝人は鞄からとり出した袋を見せ、小さな声で「学校でこういうことしないでよ」と告げられた。
「先に帝人がしただろ」
「え、あっ! やっぱり起こしちゃったんだ。えっと、ごめん・・・・・・ん? 起こさないといけなかったら謝ることじゃないか・・・・・・もう帰らなきゃいけないんだから、さっさと行こうよ」
「もっとこう、ねっちょりベーゼタイムちゅっちゅっみたいにならない?」
「なに訳わかんないこと言ってんの。しないよ。学校で本当、信じらんない」
「帝人が」
「僕はそんなことしないよ。今までしたことないじゃん」
 ふてくされるような帝人の反応に正臣は首を傾げる。
 どうにも会話が噛み合わない。
 目の前の帝人のネクタイをまたグイグイ引っ張ってみる。
 困ったように「やめてよぉ」とか言われるともっと言わせたくもなる。怒られるので程々で手を引くが。
「みかどぉ」
「眠いの?」
「俺にキスしたよな?」
 直接的に聞いてみる。
「してないよ」
 あっさりとした返答。
「なんでしない」
「逆になんでしないといけないのさ」
「帝人がフラグ選択を間違ったりしても俺がちゃんと軌道修正したから問題ないが・・・・・・じゃあ、俺に何した?」
 正臣の言葉に帝人は恥ずかしそうに口を閉ざす。


作品名:それは…… 作家名:浬@