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真選組内部事情

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山崎の疑問



 俺は真選組の監察に所属している。仕事内容はきつかったりもするけど、わりと真面目に職務を勤めている方だと思う。だって、俺はストーキングしたり惰眠を貪ったりなんてしていない。
 仕事柄しかたがないのだけど、九時から五時まできっちり働くなんてことはなくて、朝昼晩を問わない場合がほとんどだった。もう、超過労働も良いところだ。だから、たまに庭の隅っこでミントンに励むくらい許してくれたっていいと思う。
 唯一の娯楽であるミントンの時間にいつも鉄拳制裁でもって終止符を打つのは、直属の上司である真選組副長土方十四朗その人だった。
 真選組において局長に次ぐ権力者である副長だけど、実際隊務を取り仕切っているのは副長その人だと思う。
 俺が所属する監察は、局長副長の元に続く各隊とは違って、副長である土方さん直属になっている為、他の隊とは立場が少し違う。まぁ、仕事内容もまるで違うのだけど。
 監察のみ副長配下だなんて不思議だと思ったけど、しばらく働いた辺りでなるほど上手い作りだなって思った。でも、他の隊士達はあんまり気にしてないようだった。それどころか、俺達監察のことを雑用係とでも二認識してるんじゃないかと思う。特に隊長格の人たちは。
 俺達監察に仕事を言い付けるのは局長ではなく副長なので、自然と副長と関わって仕事する機会が多い。そして、副長の側にいる時間が増えると必然的に沖田隊長と関わる時間も増えるのだ。日々、副長の座を狙うという名目で副長に嫌がらせをしたり、命を狙ってみたりといったことに飽くなき努力を惜しまない沖田さんだ。それ故、副長の側にいるととばっちりをくらう場合がある。
 あくまでも標的は副長だから、俺は斬り付けられたりすることはない。あんな風でも沖田さんは一番隊の隊長を張っていて、剣の腕じゃ真選組では誰もかなわないだろう。間違ってうっかり、なんてことはないと信じているけど、それでも目の前を剣筋が掠めていくのは驚くというか心臓に悪い。
 あれでも考えているのか広範囲に被害が及ぶということは、ない……とは言えないけど、昔に比べれば減ったような気がする。願望も含まれてるかもしれないけど。
 沖田さんの副長への嫌がらせはあまりにも日常に溶け込んでしまっていて、当の副長以外は慣れてしまい多少のことでは動じない。
 だから、まさか副長室から悲鳴も爆音も聞こえない日が来るなんて俺は思いもしなかったんだ。


 いつからだったろう。自然と減っていったのであれば、沖田さんも大人になったのかなとか、いい加減飽きたんだろうとか思えないこともないけど(何せ沖田さんは飽きっぽい。流行り物を一番に察知して屯所にばら撒くのに、広まる頃には飽きてしまっているという有様だ)、それはある日を境にぱったりと止んだようだった。
 口喧嘩のようなものは、今でも変わりないけど沖田さんが無闇に副長へ刃やバズーカを向けることはなくなってしまった。
 屯所の皆は、静かになって少し物足りないようではあるけど(血の気の多い人達が多い中、副長隊長のやりとりは娯楽の一種になっていたようだ)平和が一番、触らぬ神に祟りなしとばかりに、そのことについて言及する人も深く考える人もいないようだった。
 でも、俺は職業柄というよりも性質として、好奇心に溢れているので気になってしょうがない。だって、沖田さんの心境ががらりと変わってしまうような出来事なんて。
 一番に浮かぶのは、沖田さんの姉上様が他界されたことだと思うのだけど、それは時期が一致しないので却下だ。俺だって、あの後に沖田さんが大人しくなったのであれば、何も思わないし触れようとも思わなかった。きっと、俺になんて計り知れない傷を、心の一番柔らかいところに刻まれてしまったに違いないのに、気丈にもそんなことをおくびにも出さない姿を見ては、歯がゆく思っていたのだ。言える筈がない。
 そうだ。あの出来事でもおさまらなかった沖田さんが大人しくなった。その事実が俺の中の好奇心をくすぐってしょうがないんだ。
 沖田さんが大人しくなった頃の記憶をなんとか手繰ってみるけど、それらしいことを俺は思いつかない。あれ、と思ったのは珍しく読書をしている沖田さんを目撃したぐらいだけど(タイトルは見えなかったし、何となく怖くて近寄れなかった)流石にそれは関係ないだろう。まさか、読んだら大人しくなる本とか? そんなのがあるなら副長にこそ読んで欲しい。まぁ、沖田さんの考えることなんて俺なんかのおよび知る所じゃないんだろう。
 どちらかと言うと、沖田さんというよりも副長の様子がおかしかったように思う。
 副長としてではなく、仕事を離れた土方さん個人としての感情はわりとわかりやすい。人間観察が仕事の俺だからということに加え、多少の近さというものも手伝っているんだろう。他の人よりはわかっているんじゃないかと思っていた。
 だけど、その頃の副長は本当におかしかったけど、俺の観察眼をもってしても原因はさっぱりわからなかった。ちなみに、多少マシにはなったけれど副長の挙動不審は今でも継続中だ。

 副長がおかしくなり始めた頃、ある日俺は屯所の敷地の隅にある物置の側で副長を見た。
 非番の副長はいつもの黒い着流しを着て上から下まで真っ黒という格好で、黒い子犬をあやしていた。同類同士仲良くしているのかと一瞬思ったけど、副長と愛らしい子犬を同列にするだなんて、子犬に申し訳なくて名も知らぬその犬に心の中で謝ったりした。
 いつも仏頂面の副長だけど、案外涙もろいとうことは真選組の連中はみんな知っている。本人に面と向かって言う程、肝が据わっているのは沖田さんぐらいだけど。
 それと並んで、いがいと可愛らしいものが好きだということはあまり知られていない。バレないのはひとえに真選組という組織に可愛らしいものが介入する機会があまりないからだと思う。でも、俺はひょんなことから知ってしまった。
 あんな顔をしているから女にはモテるが、子供や動物にはまるで好かれない。副長を見て野良犬が逃げていくのを、沖田さんがからかったりしていた。そんな時は対して気にも止めてない風なのに、陰でこうして動物と触れ合おうとしている土方さんを見るのは何というか。こう、見てはいけない物を見てしまった気分にさせられる。
 しかし、良く見ると普通に可愛がっているという訳ではなさそうだった。手を伸ばしているのでなでているのかと思いきや、伸ばされた手は子犬の十五センチ上ぐらいで止まっている。眉間にいつもの三割増ぐらいで皺を寄せ、子犬に手を翳して何をしているんだろう。その真っ黒な子犬は、ホントにちょこんという音がするように座り、短いしっぽをパタパタと振りながら副長を不思議そうに見上げている。
 ちょっとかわいそうになったというか見ていて居た堪れなくなってきた所で、副長は手を下げてギュッと拳を握りこんだ。その表情があんまりにも真剣だったから声をかけることなんてできなかった。
 とばっちりを食うのはご免こうむりたいので、俺はそっとその場を後にした。
作品名:真選組内部事情 作家名:高梨チナ