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真選組内部事情

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 どうやら土方さんの頭に耳が見えるのは俺だけらしい。どうして俺にだけそんなもんが見えるのかはわからないけど、どうやらそうらしい。ついでに頭にばかり気をとられていて気づかなかったけど、尻からは尻尾が生えていた。どういう理屈か服を着てても、ちゃんと見えるから不思議だ。
 土方さんから生えているそれらは真っ黒で、土方さんに合ってると言えば合っている……ような気がする。尖った耳と細長い尻尾。俺は動物にはあんまり詳しくないから断定はできないけど、あれは猫の耳と尻尾じゃないかと思う。うーん、真選組の鬼副長が萌え三種の神器の一つを手に入れた。思わず効果音でもなりそうな事態だ。その効果音もレベルアップにするか呪いにするか悩み所だけど。
 俺は、俺にしか見えないその耳と尻尾に慣れるのに苦労した。何せ、俺にしか見えないので誰にも気持ちをわかって貰えないのだ。気を抜けば、指をさして大笑いしそうになるのを堪えるのに必死だった。こうなると、土方さんが俺を避けていることは俺にとっても都合が良かった。
 とりあえず俺は、遠巻きに土方さんを眺めては笑いを堪えるということを繰り返し、まぁ、何とか笑わずに済むようにはなってきた。自分で言うのもなんだけど、柔軟性には自信がある。きっと土方さんではこうはいかない筈だ。そう思うと、俺にだけなんでこんな愉快で不幸なことが起きるんだと、少し不条理に思うけど、そこは発想の転換てやつだ。俺にしか見えないなら、そこを逆手にとってやればいいのだ。
 幸いなことに、土方さんは俺が土方さんに耳と尻尾が見えるなんて知らないので(まぁ、普通はそんなこと考えもしないないだろう)、俺は存分に利用させて貰うことにした。土方さんは、俺に言葉が不自由だの、他人にわかるように話せだのと文句をつける癖に、自分だって俺にきちんと話さない。言葉と態度では誤魔化せるかもしれないが、耳と尻尾ならどうだ。
 少しの間、観察していてだいたい土方さんの耳と尻尾がどういう反応をするのかはわかった。ただ、俺は猫についてそんなに詳しくなかったので、早速いそいそと本屋に足を運び、久しぶりに漫画と雑誌以外を購入してみた。タイトルは「ねこのきもち」。猫の飼い主の為の、初心者用の本だった。


 最近、土方さんが俺のことをかなりの勢いで無視をするので、苛ついていたのだけど(だって土方さんのくせに生意気だから)どうやら、無視している訳ではないらしいということがわかった。
 だって、俺の言うことなんて上の空といった風なのに、頭の上の両耳はいつも正しく俺の方を向いていた。
 猫の耳は嘘が付けないらしい。器用にできていて、話を聞いていないふりをしていても、ちゃんと聞いている場合は耳がその方向を向くのだそうだ。つまり、そういうこと。
 それを知って、わかったことはまだある。土方さんは他の隊士達と話していても、俺の声が聞こえると必ず反応して耳がこちらを向く。流石に他の奴等と話している時は、そちらの話も聞くからなのか片耳だけが俺の方を向くのだけど。それにしても、そんなことは態度に全く出さないので笑ってしまう。おかげで俺は、最近心の中で一人笑い転げることが増えてしまった。

 あと、尻尾もやっぱりいい判断材料になる。俺を視界に入れようとしない土方さんだけど、そんな時の尻尾はたいていがピンと張りつめて立っている。そして、俺が色々とやらかした時なんかは逆に尻尾を大きく振ったりして、この人はほんとにマゾだったんだなぁとしみじみ思ったんだけど、それは俺の誤解だったみたいだ。尻尾を振ってると喜んでるんだと思ってたけど、それは犬の話であって猫はそうじゃないらしい。尻尾をぶんぶんと振っている時は、機嫌が悪い時でそっとしておくべしと「ねこのきもち」には書いてあった。
 俺は土方さんが真性のマゾじゃなくて良かったと思う。だって、俺がすることで喜ばれたりしたら気持ち悪い。土方さんが嫌がる姿は唯一、土方さんを好きだと思える部分だったから。
 そして、俺を無視する時の尻尾を立てた状態なのだけど。これは、もの凄く機嫌が良かったり親愛を示している状態らしい。
 もう、何だそれって感じだった。土方さんの行動は良くわからない。つまり、あれだ。土方さんは何だかんだ言いながらも、俺の言うことはきちんと聞いているし(それどころか、土方さんに向けていない発言にまで気を配っている)、俺を視界に入れないようにしているくせに、俺のことを親しく思っていると。
 そこまで考えて、俺はしばらく土方さんを狙うのを止めようかと思った。だって、馬鹿らしい。俺にどうして欲しいのか、さっぱりわからないけど、きっと俺が構わなくなったら淋しくなるに違いない。それが一番堪えるんじゃないかって思ってしまう。
 土方さんがそんな風に思うなんて、以前の俺だったら考えもしなかったけど、あんなのを見せられたらそういう気分にもなるというものだ。
 今も、土方さんはお前なんて知るかと俺の存在なんてない風に装っているけど、二つの耳は俺の方を向いているし、尻尾だって真っ直ぐ天井を向いている。何だよと思う反面、口元が歪むのはなかなか抑えられそうになかった。





2007.2.28
作品名:真選組内部事情 作家名:高梨チナ