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真選組内部事情

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「土方さん」
 なるべく総悟と一緒にならないように、俺は進んで副長室に篭りがちになっていた。幸いなことに、仕事だけは山積みなので不自然なことはない。と思う。
 そんな具合に気が緩んでいたところに、唐突に総悟が現れた。
「うおっ、な、なんだ、脅かすんじゃねぇよ」
「別に気配消してないでしょうが。暇さえあればボーッとして、アンタ最近おかしいんじゃねぇの」
 痛いところを突かれた。理由が理由なので、何となく後ろめたくなってしまい目をそらす。しかも原因である総悟とは何となく目を合わせずらい。
「別にンなことねぇよ」
 総悟の頭の上をなるべく見ないように視線をやると、酷く呆れた表情をしていた。更に口を開こうとする前にそれを遮られる。
「煙草」
「ん……? おわっ」
 指で煙草を指してくるので、手元を見ると煙草の灰が指まで後一センチといったところだった。慌てて灰皿に灰を落としてやる。危うく広げた書類を焦がすところだった。それにしてもよくあの状態で落ちなかったもんだ、我ながら器用なことをするなと感心する。
「煙草で大事な書類を焦がしそうになっておいて、よくもまぁ」
「るせ。ほっとけ」
 やっぱり代わりに俺が副長になるしかと呟いているのはスルー。俺の様子がおかしいので、何かあったと決めつけてからかいに来たらしい総悟を追い払ってやろうと、身体を机から離して向き直った。
 俺の手から煙草が転がり落ちる。
 火種が生きている煙草は俺の指からするりと逃げ出して重力に従い落下した。かろうじて書類は避けたみたいだったが畳を焦がす。
「あーあー、何やってんですか。あんたホントどーしたっての」
 いまだに硬直していて拾おうともしない俺に変わって、総悟が煙草を拾い上げて灰皿に押しつける。
 総悟はいつも通りの無表情っぷりで俺を見ている。しかし、その表情とは裏腹に、総悟の尻尾は左右に揺れていたのだ。お前、それは反則だろう。
 犬は飼い主に忠実だ。奴等はしゃべることができない分、行動や仕草で感情を表現している。一番わかりやすい表現、それは懐いた相手に千切れんばかりに尻尾を振るという行為じゃないだろうか。そう、目の前の総悟のように。
 目の前で冷たい視線をこちらに向けながら、尻尾だけは親愛の印を送ってくるその様子を見て、俺は何となく小さい頃の総悟が頭をよぎった。そして、自分の病気が完治に向かうどころか、悪化の一途を辿っているのではないかと今更ながらに思う。だって、あれだ。これは、総悟に懐いて欲しい、そう思っているということなのか、俺は。
「土方さん?」
 いや、もうマジで勘弁してくれ。
「……別にどうもしねぇから、お前もう仕事戻れ」
 俺の心臓に悪いから、そう心の中で続きを呟いて、溜め息を一つついて机に向かい直すと、総悟は不機嫌そうに顔を顰め、大きな音をたてて扉に当たり散らして出て行った。
 最後の溜め息が特にお気に召さなかったんだろうと思うが、あれは自分自身に対してのもので、そこに対して総悟が怒る必要は全くないのだ。まぁ、誤解を解こうとは思わないけど。

 そうそう副長室で引き篭りばかりしてる訳にもいかないので、とりあえず俺はなるべく総悟を見ないという至極消極的な方法で日常へと挑むことにした。だが、そんな方法がいつまでも続けられる訳がない。それでなくても、俺と総悟は仕事でコンビを組むことが多いのだ。
 せめてもの救いは、段々と総悟の容姿に慣れてきたことだろうと思う。ただ、やっぱり不意打ちでくる仕草がどうにも心臓に悪い。一応、尻尾もいつも揺れている訳ではなくて、そこはナイス俺だと自分を誉めてやりたい。本気で機嫌が悪そうな時なんかは地面に向かって大人しく垂れたままになっている。
 総悟は元々感情が表に出ないので、どこで判断していいのか迷うことが多いのだが、俺の深層意識ではきちんと判断がされているようだった。人間の深層意識ってのは侮りがたい。


 周りは知らないだろうが、俺は犬猫がわりと好きだった。町中で見かけたら、なでてやりたくなるくらいには好きだ。見回りの最中などは気を張っているので、それが敏感な動物には伝わるのか触ろうとすると逃げられてしまって、内心傷ついたこともある。そんな場面を総悟に目撃された時は、指をさして爆笑されたり冷たい視線を投げられたりもした。
 総悟は特に自分からかまってやる訳じゃないのに、ふいに足下に擦り寄られたりしている時がある。そうやって寄ってきた野良猫なんかに対しては軽くあしらっていて、どう思っているかは良くわからなかった。自由気ままなところに通じるものでもあるんだろうかと不思議に思う。絶対に俺の方が好きなのに不条理だ。
 まぁ、そんなことはいい。
 要するに、そんな訳なのでふとした時に総悟の頭をなでてやりたくなったりする自分がいるのだ。別に今まで総悟の頭をなでるぐらいは、普通にしていたことだった。最近は、減ったとはいえ無くなった訳ではない。総悟が小さかった頃なんて、特に考えもせずになでたりして手痛い反撃をくらったりもした。
 でも、今それをするのは憚られた。一度なでてしまえば負ける気がする。終わる気がする。何がだ、と自分でも思うがそう思うんだから仕方がない。
 最近では屯所に迷い込んで来たり道端でうろうろしている犬を見かける度になでたくなる。でも、普通の犬ですら手を出したら終わる気がして、いつも葛藤するのだった。図らずも、これは総悟に向き合う時の練習になっている。そんな日々を送っているうちに、俺は気づいてはいけないことに気づいてしまった。
 俺と近藤さんにだけ、あの総悟の尻尾は激しく揺れるのだ。
 その事実に気づいた時、俺は本当に消えてしまいたくなった。

作品名:真選組内部事情 作家名:高梨チナ