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真選組内部事情

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沖田の能力



 最近土方さんがおかしい。
 あの野郎、俺のことを見ようとしやがらねぇ。どうも土方さんは俺のことを視界に入れたくないようだった。話をしていても、上の空のことが多い。
 確かに俺は土方さんに色々としていることは認める。だけど、たかだか悪戯をしたり命を狙ったりする程度なのだ。可愛いもんだと思う。不本意ながらも、現在は真選組の副長に就いているのだ、それぐらい広い度量で笑って流すぐらいすればいいと思う。

 ここのところ土方さんは休日と睡眠を返上で仕事をしていて、現在やっと一段落ついて仮眠中とのことだった。何で俺がそんなことを知ってるかというと、だから今は起こさないで下さいねと山崎に言われたからだ。だけど山崎はまだ俺のことをわかってないと思う。俺がそんなことを聞いて、放っておく訳がねぇのに。そんな訳で俺は、自分の部屋に戻っていそいそと道具を選ぶと、土方さんの部屋に向かったのだった。
 自分の部屋から気配を殺して(何せ敵は気配に敏感だ)そっと扉を開けると、土方さんは部屋の隅に置いてあるソファに横になって眠っていた。布団を使っていないということは、本当に仮眠のつもりなんだろう。
 左手に持ったマジック(もちろん油性である)の蓋に手をかけながらそっと近づいた俺は、土方さんの顔を覗き込んで危うく吹き出しかけた。何やってんのこの人。俺は吹き出さなかった自分に賞賛を送る。
 だって、頭に黒い耳を付けて眠っている土方さんなんて、そうそう見られるもんじゃないと思う。

 土方さんの性格について俺はおおまかにだけど、わかってるつもりだ。でなきゃ嫌がらせなんてできやしない。到底、この惨状を自分でやったとは思えない。そうなると、誰かにやられたと考えるしかないのだけど、俺以外でこの人にこんなことをできる奴はちょっと思い当たらない。良い仕事だと思う。
 俺は土方さんと違って無駄に理由を考えたりしない。起こったことを疑う暇があったら受け入れる。土方さんとは器が違うのだ。土方さんは臆病だから、起こった出来事にきちんと理由づけができないと落ち着かないみたいだけど。俺が土方さんは副長に向かないと思う理由の一つだ。
 そんな訳で、柔軟な俺はすぐにズボンのポケットへと手を滑らせて携帯電話を取り出した。もちろん、カメラ付き。この有様は、後世まで語り継がなければならないと俺は使命感に燃える。チャンスは一度きり。マナーモードにしてあるとは言っても、カメラのシャッターは押すと音が出てしまうので、流石に起きてしまうだろう。俺は笑いを堪えながら、慎重にアングルを決めてボタンを押した。
 ぴろん。シャッターを押すとそんな間抜けな音が出る。そして、写真を確認することもなく保存して携帯をポケットにしまう。写真を土方さんに見られたら、あっという間に削除されてしまう。そうなる前に、複数にバックアップをとらなければ。
 久しぶりの楽しい出来事に顔が緩みそうになるが、そんなことはおくびにも出さずに(そういうことは大得意だ)土方さんが起きるのを待った。案の定、音に反応した土方さんはゆっくりと瞼を持ち上げて、焦点が合わないのか数回瞬きをする。こうなったら、気配を消しているのは無意味なので変わりに殺気をみなぎらせてやる。
 一瞬身体を硬くするが、すぐに現状を理解したのか土方さんはもの凄くイヤそうな顔をした。俺としては、その表情だけでも満足な訳だが、今日はもっと素晴らしい収穫があったのだ。ひっそりとポケットをなぞってほくそ笑む。
「ん……だよ、てめ、俺の貴重な睡眠時間削ってんじゃねぇよ」
 寝起きのせいか、聞きとりずらいくぐもった声だった。俺が殺気を出しているというのにお構いなしで、こういう所が本当にむかつく。土方さんは普段から俺に殺気を向けられているせいか、俺が本気かどうかという線引きがとても上手い。殺気を出し入れするのは、俺にとってもの凄く簡単なことなんだけど、そこに種類なんてないつもりだった。でも、土方さんに言わせると本気の殺気と冗談のような殺気があるらしい。そう言われて、振り返ってみて、初めて自分でも加減のようなものが存在するかなぁと思いあたった。だけど、俺だって言われて気づいたぐらいで、その程度の差なのだ。
 そう言えば最近の土方さんは、その見極めの精度を更に上げたんじゃないかと思う。土方さんが言う所の本気モードの時、敵はあっさりと引くのだ。もう一歩踏み込んでくれば、手酷くやり返してやろうという時に限って引いてくる。そして、土方さんが引いたことで肩すかしをくらって、俺は初めて自分の状態を認識するといった具合だった。
 現在、どうやら本気モードではないと決めつけた土方さんは、欠伸をしつつ時計を確認すると、手で俺を追い払う仕草をする。いつもだったら、ただで引き下がる俺じゃないけど、さっきの衝撃写真のことがあるので素直に従うことにした。
「それじゃ、俺は食堂に行きますんで、土方さんも後で来て下せぇよ」
 そう言ってにっこり笑ってやると、土方さんは目に見えて何とも言えない困惑した表情をした。そんな表情をしつつも頭には耳が乗っているのだ、もうお笑いでしかない。
 当然、土方さんの身に起こっていることを教えるつもりは、全くない。食堂にたむろしている隊士達が土方さんを見て、怖がったり笑ったりして、顔を青や赤に変えるだろう様を想像するだけでたまらない。爆笑ものだ。

 俺は食堂で大人しくご飯を食べながら、土方さんが来るのを今か今かと待ちかまえていた。こんなに土方さんを待ち焦がれることなんて、俺の人生で今までにあっただろうか。
 いつもは流し込むように食べるご飯を、殊更ゆっくりと咀嚼しながら身体の中へとおさめていく。俺より後に入ってきた山崎が食べ終わって盆を下げに行く時に、まだ俺が食べていたので驚いたようだった。
「あれ、沖田さん。今日は随分とゆっくり食べてるんですね」
 盆を下げた後、湯飲みだけ持って俺の向かいへと座ってそんなことを言う。のんびりとした山崎を見ていると、観察も今はそんなに忙しくないのかもしれないなと思う。
 土方さんを待っているなんて言ったら、凄くイヤな顔をされて屯所で暴れないで下さいねとか言いそうだったので、俺は別の答えをするりと口にする。
「飯をゆっくり食うと体に良いんだとよ。お前もやってみたらどうでィ」
「ご飯は食べられる時に、急いで食べておかないと食いっぱぐれちゃうんで、どうしても早くなっちゃうんですよねぇ」
「職業病だなぁ。山崎はいがいと仕事に真面目だなぁ」
「俺はいつだって真面目ですよ! もう、沖田さんにだけは言われたくないです……っと」
 慌てて言葉尻を窄めるけどもう遅い。無言で視線を注いでやると、山崎は慌ててしどろもどろに言い訳を始める。山崎は観察としてはそれなりに優秀なんだろうけど、こうして口を滑らしたりする迂闊さがあって、大丈夫かなと思わせる反面、憎めないとも思う。誰かさんにもこういう可愛げってもんがあれば、まだ救われるのに。
 噂をすればという奴か、俺が山崎で遊びながらそんなことを考えていると、土方さんが食堂に顔を出した。もちろん、頭には耳のオプション付き。
「山崎、あれ見てみろィ」
作品名:真選組内部事情 作家名:高梨チナ