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ハッピー・バレンタイン

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『知らないのか?バレンタインは元々は別に女性だけのものじゃなくてな、男女関係なくプレゼントを渡すんだよ。あとはお世話になってる人に感謝の気持ちをカードで伝えたりもするかな。とにかく、女性からチョコレートを贈るという固定観念は日本特有のものなんだ』
「そう、なのか?」
 最近は海外の習慣も一般に知られ始めてきたが、当然そういったことに疎い静雄は知らなかった。
『ああ。だから別に静雄から帝人に何かを贈ったって別に間違ってはいない。それにチョコだって最近は逆チョコとかいうのがあるんだろ?それだっていいんだしな。とにかく、これはいいキッカケになるんだ。活かさないテはない!』
 セルティの言葉に静雄は考え込んだ。今の穏やかな現状は静雄には心地良くも辛い。かといって告白する勇気も契機もないのなら、確かにバレンタインに便乗してみるのもいいのかもしれない。
「……そうだな。うん。サンキュー、セルティ。おかげで踏ん切りがついた」
『そうか。それならよかった。頑張れ静雄!』
「ああ」
 かくして静雄のバレンタインでの告白が決まり、引き続いて今度はプレゼントの相談が始まった。ああでもないこうでもないと話して、結局は無難に花束に決まり、後は当日を迎えることとなった。





 バレンタイン当日の夕方。静雄は緊張した面持ちで公園に向かっていた。そこに帝人がいるはずだった。生憎約束しているわけではなく、セルティが帝人を呼び出してくれたのだが。
 張り詰めた表情しかも花束付きの喧嘩人形に道行く人々がいつも以上に距離を空けて道を譲っていたが、そんなことに気づく余裕もなく静雄は公園に到着した。ベンチから覗く小さな黒い後頭部に緊張が高まって足が止まってしまう。だがここで怯んでは何も変わらない。応援して協力してくれたセルティにも申し訳ない。静雄は何とか固まりそうになる体を動かした。
「りゅっ、竜ヶ峰!」
 声が上擦って若干裏返った気がした。だがそんなことも、振り返った帝人の笑顔一つでどうでもよくなる。
「静雄さん。お疲れ様です。今日はお仕事終わられたんですか?」
「あ、ああ」
 緊張にいつも以上に言葉数が少ない静雄に帝人が小さく首を傾げた。小動物じみた仕種がやっぱり可愛らしい。
「静雄さん?」
 呼び掛けられてハッとする。うっかり見とれている場合ではない。
「り、竜ヶ峰!」
「?はい」
「これ!」
 後ろ手に持っていた花を差し出した。むしろ突き付ける勢いだったが、辛うじてぶつけることはなかった。
「わあ、綺麗ですね」
 可憐な花束にも負けない笑みを浮かべて受けとってくれたことに勇気が湧く。
「好きだ!俺とつき合ってくれ!」
 叫ぶように告げたそれに、大きな瞳が更に大きく丸くなって零れそうだった。続く沈黙に不安が沸き上がって怖くなる。だが逃げることも視線を逸らすことも出来ない。
 見つめる瞳が潤んだ。泣かれるのかと心臓が引き絞られそうになったのは一瞬で、少女は潤んだ瞳のまま笑った。それは見たことのない綺麗な笑顔で、静雄が恐れていた感情など微塵も感じることが出来なかった。
 花束を慎重に腕に抱えたまま帝人が鞄を探る。取り出したのは薄い藍色の箱を金のリボンが飾った小さな包みで、状況的に可能性の高いそれに期待が高まった。
「僕も好きです。これ、受け取っていただけますか?」
「……いよっしゃあああ!!!」
「ひゃっ!?」
 気がついたら帝人を両脇から抱え上げて回っていた。目を回してしまうと慌てて地面に下ろすと案の定、細い体がふらついて咄嗟に支える。思わぬ接触に動揺するが、それより帝人だと顔を覗き込んだ。
「わ、悪い!大丈夫か!?」
「ふっ、ふふっ。急にびっくりしますよ静雄さん」
 笑ってくれている。そのことにほっと安堵した。
「で、これ、受け取っていただけるんですか?」
 少し悪戯っぽく笑う帝人の手にはチョコレートが入ってるだろう包み。そうだったと慌ててそれを受け取った。
「あ、当たり前だ!じゃなくて…ありがとう。その……これから、よろしくな」
 なんとも格好のつかない台詞だ。だがどれも静雄の本心で、そもそも帝人相手に格好つける余裕など端からないのだから、仕方ないのかもしれない。出来るものなら格好つけたいとは思っているのだが。
 だが静雄のそんなちっぽけな矜持など、今帝人が見せてくれる笑顔の前には無意味だ。
「はい。こちらこそ、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
 ああ、きっと今自分は世界で一番幸せに違いない。静雄はそう確信していた。
作品名:ハッピー・バレンタイン 作家名:如月陸